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2026.05.15

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妹が手掛けたプロジェクト、チェルノブイリの記憶。世界の音楽家ヴァスコ・ヴァッシレフを動かした環境への意識


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連載「The BLUEKEEPERS project」とは……

英国チャールズ国王の戴冠式でコンサートマスターも務めたヴァスコ・ヴァッシレフさん。そんな彼が主宰する、地球環境の啓蒙をテーマにしたチャリティコンサート「My Planet」が3月に開催された。アジア初開催となる今回の公演をサポートしたのは、セイラーズ フォー ザ シー日本支局 理事長であり、OCEANSのSDGsアドバイザーを務める井植美奈子さんだ。

本稿では、世界的音楽家であるヴァッシレフさんがなぜ環境問題に目を向けるようになったのか。その背景を井植さんとともに掘り下げていく。
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▶︎第1回はこちら

【写真7点】「妹が手掛けたプロジェクト、チェルノブイリの記憶。世界の音楽家ヴァスコ・ヴァッシレフを動かした環境への意識」の詳細写真をチェック

[左]井植美奈子(いうえ・みなこ)⚫︎ディビッド・ロックフェラーJr.が米国で設立した海洋環境保護NGO[Sailors for the Sea]のアフィリエイトとして独立した日本法人「一般社団法人セイラーズフォーザシー日本支局」を設立。京都大学博士(地球環境学)・東京大学大気海洋研究所 特任研究員。総合地球環境学研究所 特任准教授。OCEANS SDGsコンテンツアドバイザー。[右]ヴァスコ・ヴァッシレフ(Vasko Vassilev)⚫︎ヴァイオリニスト・指揮者/ブルガリア出身。8歳でソフィア・フィルハーモニー管弦楽団と公演しレコードをリリース。10歳からモスクワ音楽院に留学し、数々の国際コンクールで受賞。1993年、史上最年少の23歳で、英国ロイヤル・オペラ・ハウスのコンサートマスターに就任、2005年には同クリエイティブ・プロデューサーに就任。ブルガリア文化大使も務めている。

[左]井植美奈子(いうえ・みなこ)⚫︎ディビッド・ロックフェラーJr.が米国で設立した海洋環境保護NGO[Sailors for the Sea]のアフィリエイトとして独立した日本法人「一般社団法人セイラーズフォーザシー日本支局」を設立。京都大学博士(地球環境学)・東京大学大気海洋研究所 特任研究員。総合地球環境学研究所 特任准教授。OCEANS SDGsコンテンツアドバイザー。[右]ヴァスコ・ヴァッシレフ(Vasko Vassilev)⚫︎ヴァイオリニスト・指揮者/ブルガリア出身。8歳でソフィア・フィルハーモニー管弦楽団と公演しレコードをリリース。10歳からモスクワ音楽院に留学し、数々の国際コンクールで受賞。1993年、史上最年少の23歳で、英国ロイヤル・オペラ・ハウスのコンサートマスターに就任、2005年には同クリエイティブ・プロデューサーに就任。ブルガリア文化大使も務めている。


チェルノブイリで見た光景が残したもの



井植美奈子さん(以下、井植) ヴァスコさんが、環境への意識を高めるコンサートを開きたいと考えた、直接的な動機はなんだったのでしょうか?

ヴァスコ・ヴァッシレフさん(以下、ヴァスコ) 私が「My Planet」をやりたいと思ったのは、妹のヴィヴィアンがきっかけです。彼女はパーカッショニストで、廃材を楽器にした「リサイクル・コンチェルト」を制作して、それを使ったコンサートを開いたんです。捨てられている瓶や缶、ワインのコルク、ペットボトルなどを並べて打楽器にして演奏していました。

しかも楽曲は、ネスレやコカ・コーラといった、廃材のもとになった製品のコマーシャル音楽なんです。とても独創的で、ユーモアもある。そのプロジェクトを見たときに、自分も何か始めたいと思いました。妹は私よりずっと若いですが、これからの時代を生きていく人たちのためにも行動すべきだと感じたんです。



井植 とてもウィットに富んでいますね。ほかにも環境に対して意識を持つきっかけとなった出来事はあるのでしょうか?

ヴァスコ チェルノブイリ原発の事故ですね。私はブルガリア生まれですが、当時はモスクワの音楽学校に通っていました。モスクワからブルガリアへ向かう道中にその場所があって、両親が運転する車の中から、あの惨状を目の当たりにしたんです。放射能の影響で巨大化した野菜の映像をニュースでも見て、環境への甚大な被害を実感しました。環境汚染を肌で感じた、最初の経験でしたね。

幼い頃は山や海でよく遊んでいましたし、両親も山が好きで、ハイキングにもよく出かけていました。自然はとても身近な存在だったので、その分ショックも大きかったんです。
 
井植 日本でも八丈島や伊豆に海釣りに行くなど、アウトドアがお好きですよね。

ヴァスコ そうですね。愛する自然が人の行為によって壊されていくのを知り、自分なりのやり方で環境に向き合い、行動を起こす必要があると考えるようになりました。



井植 日頃、私が向き合っていることでもありますが、海における環境問題について、ヴァスコさんはどのように捉えていますか? 

ヴァスコ 海に関して、私が最も危惧しているのはプラスチックの問題です。ほかにもさまざまな課題はありますが、プラスチックは分解されずに残り続けてしまい、海の環境に大きな影響を与えている。日本でもプラスチック製品は至るところにあって、あらゆるものが包まれていますよね。そうした問題提起として、「My Planet」の一環で、スペインでは廃プラスチックを使ったドレスを制作したこともあります。



――複数の国で暮らした経験のあるお二人から見て、世界のごみ問題について感じることは?

ヴァスコ 個人的には、日本のごみ分別は世界の中でもかなり進んでいると感じます。街中にも分別可能なごみ箱が設置されていますよね。例えば、私が住んでいるロンドンでは、古い地区だとスペースが限られていて、ごみ箱を置くこと自体が難しいんです。

ヨーロッパ全体としては少しずつ取り組みが進み、状況も改善してきている印象があります。スペインでは近年リサイクルも盛んに行われるようになりました。とはいえ、祖国のブルガリアはまだ遅れていると感じます。ただ皮肉なことに、物をあまり消費しないという意味では、貧しい地域のほうが環境への負荷は小さいとも言えますが。

ブルー・シーフード・ガイド・UK

ブルー・シーフード・ガイド・英国版


井植 日本のごみ分別について評価いただけるのはありがたいですが、世界全体で見ると、まだ課題は多いと感じています。長く海洋問題に向き合ってきましたが、日本における大きな課題のひとつが、IUU(違法・無報告・無規制)漁業撲滅を目指す、世界各国の政府機関、NGOからなる国際的なプラットフォーム「IUU漁業アクションアライアンス」にまだ加盟していない点です。

現在は30カ国以上が加盟しており、その中心的な役割を担っているのが、ヴァスコさんが拠点とされているイギリスです。持続可能性への意識が非常に高く、新たな規制の導入も積極的に進めている印象があります。

私たちも昨年、イギリスと取り組みを行いました。イギリス大使のジュリア・ロングボトムさんからご依頼を受け、「ブルー・シーフード・ガイド」※の英国版をプロデュースしました。関西・大阪万博のタイミングで発行し、現在もこのプロジェクトをさらに発展させていきたいと考えています。

※セイラーズ フォー ザ シー 日本支局が手掛ける、地球にやさしいサステナブルなシーフードのリスト。持続可能な水産物を優先的に消費することにより、水産業全体を支援しながら枯渇した水産資源の回復を促進するという考え方に基づいている。国内では全国版、三重県版、東京都版、広島県版、京都府版が発刊中。



ヴァスコ ブルー・シーフード・ガイドの「おいしく、たのしく、地球にやさしく。」というコンセプトは、本当に素晴らしいですよね。こうした取り組みは、世界中で広げていく必要があると思います。海はひとつしかなく、分断することはできませんから、みんなで取り組んでいくべきだと感じています。



異なる経験を持つふたりの言葉は、同じ方向を向いている。その視線の先にあるのは、分断できない海と、これからの選択だ。

▶︎第3回に続く(5月16日公開)

笹井タカマサ=写真 佐々木彩=取材・文

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