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成功の絶頂で店を畳み、山へ向かった理由


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2020年まで「レストランOGINO」のオーナーシェフとして腕を振るい、都内と神奈川に計4店舗を構えていた荻野さん。予約の取れない名店として成功を収める裏側で、本人は人知れず葛藤を抱えていたという。

「職人として一定のクオリティを出し続けるのは大切ですが、28歳で店を始めてから20年近く続けてきたルーティンに、どこかで飽きている自分もいました。体力的にも経済的にも、この先ずっと自転車操業を続けるのは無理だなと。

その頃から、自分が扱う食材の『川上』に遡ってみたら面白いんじゃないかと思うようになったんです。そんな思いで野菜作りも始め、数年前に猟友会の会長に誘われて、人生初の狩猟を体験したのが間違いなく1つの転機になりました」。
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視認性を高めるオレンジのベスト。左手に持つ弾丸は、ウクライナ情勢の影響で価格が高騰しているという。

視認性を高めるオレンジのベスト。左手に持つ弾丸は、ウクライナ情勢の影響で価格が高騰しているという。


荻野さんは2022年までに全ての店を潔く畳み、主戦場を厨房から山へと移した。そこまでの大胆な決断をさせたのは、初めての狩猟で突きつけられた生々しい命の原体験だった。

「マイナス20度の極寒のなか、自分たちで獲ったイノシシをその場で捌いて鍋にしたんです。それが本当に美味しくて。さっきまで目の前を走っていた命を獲って食べる。その事実に打ちのめされました。

それまでは真空パックになって届けられる肉を調理するのが僕の仕事で、命を貰っているという実感はなかった。それが料理人としてどこか強いコンプレックスでもあったんです。『俺、何も知らないよな』って。だからこそ、自らの手を汚して命を奪う責任と覚悟を初めて肌で知ったとき、その逃げ場のない手応えに突き動かされたんだと思います」。
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