野生の匂いが漂う車内

荻野さんの傍らに立つと、日常では嗅ぎ慣れない匂いが鼻を突く。
「僕のウィンドブレーカー、臭いでしょ(笑)。黒いシミになっているのはぜんぶ血の跡。イノシシや鹿の血痕です。ほぼ毎週、狩りに行ってるので汚れがひどいし、洗っても落ちないんです。
荷室にも獲った動物を乗せるので、血の匂いや毛はどうしても残る。ファミリーカーとして普段から使ってるので、妻からは『臭い、汚い、乗り心地が悪い』って言われてます(笑)」。



そう笑い飛ばす荻野さんだが、言葉の端々には便利さや快適さとは無縁の場所で生きる男の矜持が滲む。そんな浮世離れした一台が都会の日常に紛れ込めば、ときにこんな騒動も引き起こす。
「駒沢通りをこの車で走っていた時に、警察に止められたこともありました。獲ったイノシシの血がタラタラとバンパーから滴っていたんです。想像すると確かに怖い…。ちゃんと説明をして事なきを得ましたが、獲物を見るまでは警官もさすがに警戒してました(笑)」。


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