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2026.01.03

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「日本のおせちはジュエリーボックスだ!」イタリア人マッシが感激した古き佳き正月文化


「イタリア人マッシのブオーノ・ニッポン!」とは……
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正月に食べる日本の伝統食、おせちやお雑煮。日本在住歴の長いイタリア人マッシさんだが、慣れない日本のおせちには当初、衝撃を受けていたという。そんな彼から見た、日本の正月料理のリアルをお届け!

【写真10点】「マッシが驚いた日本の正月料理」の詳細を写真でチェック
案内人はこの方!
マッシミリアーノ・スガイ●1983年生まれ、日本食が大好きなイタリア人フードライター。 KADOKAWAよりフードエッセイ『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』を出版。日伊文化の違いと面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で発信中。

マッシミリアーノ・スガイ●1983年生まれ、日本食が大好きなイタリア人フードライター。 KADOKAWAよりフードエッセイ『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』を出版。日伊文化の違いと面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で発信中。

日本の正月の静けさは恐怖に近かった


あけましておめでとう、と言いたいところだけど、その前に少し話をさせてください。

僕は日本に住んで約20年になる。イタリアのピエモンテ州で生まれ育った僕にとって、日本の正月は最初、正直に言って「恐怖」に近い静けさだった。
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イタリアの年越しをご存知だろうか? 花火が上がり爆竹が鳴り響き、街中がシャンパンと叫び声で揺れる。食べて、踊って、騒いで、古い年を追い出すのが風習だ。だけど、日本はどうだろう。除夜の鐘の重低音が108回響くだけ。そして明けた瞬間に訪れる、あの「シーン」とした静寂。店は閉まり、人々は家の中に籠る。

そして極めつけに出てくるのが、あの「重箱」。そう、おせち料理だ。今回は日本人が当たり前に食べている「おせち」と「正月グルメ」について、イタリア人の視点から徹底的に分解してみた。石川県金沢市に住む僕が感じた驚きと、この料理が持つ「凄み」についてだ。

アートのようなおせちは「最強の保存食」



初めておせちを見たとき、僕は「これはジュエリーボックスか?」と思った。黒塗りの箱に、赤、黄色、黒、白の食材がパズルのように詰め込まれている。美しい。間違いなくアートだ。でも、食べてみてさらに驚いた。「冷たい」のだ。そして「甘い」。

イタリア料理には、冷たくて甘いおかず(アンティパスト)はないことはないけど、割と少ない。伊達巻を卵焼きだと思って口に入れたときの衝撃と言ったら、エスプレッソだと思って飲んだら醤油だったくらいのパニックだ。栗きんとんにいたっては、もはやデザートだ。



なぜ日本人は正月からこんなに甘くて冷たいものを食べるのか? 最初は不思議でならなかったけど、その「仕組み」を知ったときには驚いた。

冷蔵庫などない時代、お正月の三が日はかまどの神様(荒神様)を休ませ、何より毎日料理を作る「お母さん」を台所仕事から解放するために日持ちするように濃い味付けにし、砂糖と醤油と酢で防腐性を高めた。つまり、おせちは「マンマへの愛が生んだ最強の保存食システム」なのだ。

イタリアにも保存食はある。オイル漬けや酢漬けだ。だけど、それは冬の間ずっと食べるためのものであって、正月の三日間だけのためにこれほどの手間をかけて豪華な箱を作る文化はない。この「三日間だけのための贅沢な我慢」こそが、日本人の美学なのだろう。

金沢のおせちは金箔、地域の食材や文化を取り入れている

出典:農林水産省ウェブサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/ebisu_ishikawa.html)

出典:農林水産省ウェブサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/ebisu_ishikawa.html)


今、僕が住んでいる石川県には、このおせちの概念をさらに斜め上にいく料理が存在する。まず紹介したいのが「べろべろ」だ。名前を聞いたとき、酔っ払いのことかと思ったけど、違う。これは、溶き卵を寒天で固めた料理で、正式には「えびす」と言うらしい。

見た目は、まるでプラスチックの食品サンプルのようにツヤツヤしていて、箸で持つとぷるぷると震える。食べてみると、出汁と生姜が効いていて予想外に美味い。だけど、なぜ卵を寒天で固める必要があったのだろう?

これも、「保存」と「見栄え」の魔法だ。高価な卵をボリュームアップさせ、さらに美しく見せる知恵。金沢の人は、何でも美しく見せることに命をかけている。

出典:農林水産省ウェブサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/kaburazushi_ishikawa.html)

出典:農林水産省ウェブサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/kaburazushi_ishikawa.html)


そして「かぶら寿司」。これも寿司と言いながら、シャリ(米)がない。塩漬けしたカブにブリの切り身を挟み、麹で漬け込んだ伝統的な発酵食品だ。これは衝撃的に美味しい。イタリアのチーズやサラミにも似ている、「発酵の旨味」爆弾だ。

江戸時代、贅沢を禁じられた庶民が、カブの下に高級魚のブリを隠して食べたのが始まりだという説がある。「隠してでも美味いものを食う」。イタリア人にも通じる食への執念を感じて、僕はかぶら寿司がさらに大好きになった。

さらに、金沢のおせちには平気で「金箔」が乗っている。黒豆にも、蒲鉾にも、金、金、金。味はしない。栄養もない。だけど、なんだか特別な華やかさを感じる。お正月の厳かな雰囲気と相まって、おせちがより高級で威厳のある食事に思えてくる。

こちらは知人に提供してもらった、通常のおせち料理。

こちらは知人に提供してもらった、通常のおせち料理。


おせちと並んで面白いのが「お雑煮」だ。日本という国は狭いようで、実は恐ろしく広いことを、お雑煮が教えてくれる。

僕は最初、日本のお雑煮は一種類だと思っていた。だけど、東京の友人は「四角い餅にすまし汁」と言い、大阪の友人は「丸い餅に白味噌」と言う。ここ石川県はどうかと言うと、基本的には「すまし汁に丸餅」だ。北前船の影響で関西と関東、京都の文化がミックスされているらしい。



これを聞いて、僕はイタリアのパスタ戦争を思い出した。ボローニャではトルテッリーニ、ピエモンテではアニョロッティ。隣の村に行けば中身が変わる。食に関しては保守的で自分の村のやり方が世界一だと信じて譲らない。

「うちは白味噌以外ありえない」「焼かない餅なんて餅じゃない」と論争する日本人を見ていると、なんだかイタリアのマンマたちが喧嘩しているようで微笑ましくなる。餅の形ひとつに、関ヶ原の戦いのような境界線がある。スープ一杯に、その土地の歴史の変遷が詰まっているのだ。

最近では、日本のおせちは変わってきた。デパートに行けば「イタリアンおせち」や「中華おせち」、「肉づくしおせち」なんてものも売られている。「伝統が崩れている」と嘆く人もいるかもしれない。だけど、僕はそうは思わない。



そもそも、おせち自体が歴史の中で変化してきたものだ。栗きんとんや伊達巻が今の形で定着したのは明治以降だという説もある。イタリアのクリスマスケーキ「パネットーネ」だって、昔はシンプルなドライフルーツ入りだったけど、今はピスタチオクリーム入りだのチョコレートがけだの、どんどん進化している。

それでも、家族で切り分けて食べるという「行為」そのものが重要だ。形が変わっても、「新しい年を祝い、家族の健康を願う」というコアの部分が変わらなければ、それは立派な伝統の継承だ。むしろ、飽きられないように進化させていくその柔軟さこそが日本食の強さだと思う。



もし読者のみなさんが今年のお正月に「またおせちか、飽きたな」と思ったら、こう考えてみてほしい。目の前にあるその重箱は、冷蔵庫のなかった時代のハイテク技術の結晶であり、家族を休ませるための優しさの塊であり、イタリア人も驚くような「食べる祈り」なのだと。

そして、もし金沢に来ることがあれば、ぜひ「べろべろ」を食べてみてほしい。石川県の奥深さと、ちょっとした食の楽しさを感じてもらえるはずだ。

僕もそろそろイタリアのマンマに電話をして、どんな料理を食べたのか確認してくる。では、Felice anno nuovo! (幸せな新年を!)

▶︎マッシさんの公式Xはこちら!

マッシ=写真・文 池田裕美=編集

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