② 高級住宅街とのコントラストが際立つ「江南(カンナム)」

次に紹介するスラム街は、ソウルを流れる大河・ハンナムの南にある江南(カンナム)にある。カンナムと言えば、現在の韓国を代表する都市だ。1970年代から高層マンションやオフィスが建築され、政治、教育、商業、すべてがカンナムに集中した。大ヒットした韓流歌手PSY(サイ)の楽曲「江南スタイル」は富裕層の贅沢な暮らしぶりを題材にしている。
そんなオシャレタウンのカンナムに、韓国最大のスラム街がある。そろそろ “あった” と過去形になるが、そのスラム街の地域の名は“九龍村”と書いて“クリョマウル”と読む。香港の九龍城が由来だと思う。

スラム街は朝鮮戦争のときに形成されたものが多いが、九龍村はもう少し新しい。ソウル五輪(1988年)の開発時に追い出された人たちが住み始めたのがはじまりと言われている。新しいと言っても、もう40年近くになる。
とにかくここはものすごく広い。数百戸の家が立ち並んでいる。家と言っても、掘っ立て小屋のような家も多い。家の外壁にはビニールシートや毛布がかけられ、防寒になっている。どこまで行っても細い路地が続く、不思議な風景が広がっている。

建物の周りにはプロパンガスが設置され、洗濯物が干されている。キムチを漬けるツボも目についた。通路は比較的キレイだったが、ゴミ置き場には大量のゴミが放置されていてかなり汚く、悪臭も鼻についた。上を見上げると、これでもかというくらい大量の電線が絡み合っている。漏電して火事になることもある。かなり大きな火事も起きて、それも再開発に拍車をかけたと言われている。
ポツポツと十字架が建てられているのが見えた。教会だ。韓国では宗教の中でキリスト教の信者が最も多い。そのため町中にもたくさんキリスト教会があるが、スラム街の中にもやはりある。

家の前には青いスプレーで数字が書かれている。公的機関が把握するために数字を書いたらしいのだが、500番台の数字を見かけた。つまり最低でも500戸は家があるということだ。ちょくちょく柵で閉じられた小屋もある。「住人がいないので閉じた。いずれ取り壊すので入ってはいけない」と張り紙が出ていた。一度立ち退いてしまったら、もうそこに住むことはできないという決まりだった。
九龍村も歩いている人は少なかった。平均年齢は年々上がっていた。九龍村からは遥かに高層マンション群が見えた。訪れるたびに高層マンションは迫ってきていて、いよいよ真隣に建っている。韓国の格差を具現化したような風景だ。
そして、九龍村自体が高層マンションに変わることが決定した。近々、住人は退去することになり、大きなマンション群になる。いずれどこにスラム街があったのか判別できなくなるだろう。
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