③ 歌舞伎町や西成を思わせる「永登浦(ヨンドゥンポ)」

最後に紹介するのは、僕が韓国を訪れるたびに宿泊していた永登浦(ヨンドゥンポ)だ。ハンナム川の中洲にある、政治経済の中心地である汝矣島(ヨイド)を含むエリア。小さい工場や廃品回収業などが並ぶエリア、飲食街やモーテルが並ぶ繁華街エリア、職安と安宿が並ぶドヤエリアなどに分かれている。戦後のバラックのような乱雑な雰囲気が残っていて、新宿の歌舞伎町と大阪の西成を足したような雰囲気がある。
路地には日本のドヤのような建物が軒を連ねている。日本の温泉マークが描かれている宿も多い。つまり売春用の連れ込み宿だが、普通に泊まることもできた。2000~3000円で使えるのでまずまず安いが、もちろんそれなりのクオリティで潔癖な人には無理だ。1000円の宿では、誰が使ったか分からない布団が敷いたままであった。

韓国でもだいぶ数を減らしている、性的なサービスをする風俗店があるのもこの街だ。ガラス窓の向こうに、セクシーな服を着込み、高いヒールを履いた女性たちが手招きしている。その近くではフリーで売春している女性たちも多かった。そういう街娼を買って、先程紹介した温泉マークのホテルに連れ込む人もいる。
ここでは労働者や生活保護受給者が多数生活している。炊き出しが開催されていて、長蛇の列ができていた。道端で車座になって座り、マッコリを飲みながら大きな声で話しているオッサンたちや、道の真ん中に大の字になって寝ているオッサンがいた。

そんなスラム街だが、駅前には大きなロッテ百貨店があり、新世界百貨店という大きなデパートもできた。徐々にオシャレ街へと変貌を遂げ、それと同時に昔ながらのドヤ街は姿を消しつつある。スラム街のエリアは縮小し、新たな建物も建っている。僕がずっと利用していた古い安宿も閉鎖してしまった。数年後には、誰もここにスラムがあったことを思い出せないだろう。

どんな街でも姿を変えていく。災害や再開発で瞬く間に様変わりする場合もあるし、一軒一軒取り壊されて新たに建ち、テセウスの船のようにいつしかまったく新しい街になっている場合もある。どれだけその街に愛着があってもその変化は止められないし、止めるべきでもない。街が進化していくのは喜ばしいことである。
だから韓国の変化も喜ばしいことではあるのだが、ずっとスラム街に通っていた僕としては、どうしても寂しさが残る。複雑で絡み合うような町並みは、スラム街でしか見ることができない。そういう力強いプリミティブな街並みがなくなっていくのは切ないものだ。
ただ、そう言いつつ、ソウル駅周辺や独立門の近くにはまだ小さなタルトンネやスラム街が残っているので、これからも足繁く通いたいと思っている。
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