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クリスマスは何があっても家族で集まる日

「クリスマスに恋人と2人きりでディナー」と口走れば、イタリアでは変人扱いされる。これは、僕が日本の読者に最も強く伝えたいことだ。イタリアには、”Natale con i tuoi, Pasqua con chi vuoi"(クリスマスは家族と、イースターは好きな人と)ということわざがある通り、クリスマスは徹底的に「家族」のための日なのだ。
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どんなに仕事が忙しくても、恋人がいても、イタリア人は実家に帰る。これは義務であり、絶対的な掟だ。24日の夜、街中のレストランはほぼ閉まっている。静まり返った街のあちこちの家から、暖かな光と食器が触れ合う音、そして怒鳴り声に近い笑い声だけが漏れてくる。

自宅のクリスマスの食事の様子。

イタリアの自宅のクリスマスの食事の様子。


イタリア家庭のクリスマスは、ロマンチックのかけらもない、まさに「食の耐久レース」だ。24日のイブは肉を避けて魚料理を食べるけど、アンティパスト(前菜)だけで5種類もある。プリモ、セコンド……と続き、深夜0時まで食べ続ける。「もう食べられない」と言ったとしても、「大丈夫、リモンチェッロを飲めばまたお腹が空くよ」と、度数30度超えの食後酒と、例の巨大なパネットーネが出てくるのだ。

食べて終わりではない。食後は親戚一同で「トンボラ(イタリア版ビンゴ)」で小銭を賭けて大騒ぎし、日付が変わる頃にはほろ酔いのまま近所の教会へ向かう。「真夜中のミサ」だ。
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教会の重い扉を開けると、冷え切った空気と乳香の香りが漂う。さっきまでトンボラで負け続けて怒り狂っていたおじさんも、神妙な面持ちで祈りを捧げる。祭壇には、生まれたばかりのイエス・キリストの人形が「プレゼーペ」の中に安置されている。
 

このプレゼーペを見ながら、「もし、日本のクリスマスがロマンスの祭りだとするなら、イタリアのクリスマスは回帰と再生の祭りだ」と感じた。普段は離れて暮らす家族が集まって、同じテーブルを囲んで同じものを食べてルーツを確認し合う。そこには、イルミネーションよりも温かい、人間本来の営みがある。

クリスマスはマンマの愛情という名の“食ハラ”

翌25日の朝。静寂を破るのは、またしてもマンマの声だ。「さあ、クリスマスのランチ(プランゾ)よ!」。そう、昨夜の魚尽くしのディナーはあくまで「前夜祭」。本番は25日のランチなのだ。

この日は肉料理が解禁され、カポン(去勢鶏)の出汁で食べるトルテッリーニ(指輪型のパスタ)や、茹で肉の盛り合わせが怒涛のように押し寄せる。「イタリアのマンマによる愛情という名の食ハラ(食のハラスメント)」僕は心でそう呼んでいる。拒否権はない。ただひたすら食べて、ワインを飲んで、喋り倒すしか選択肢はないのだ。

今年のクリスマス。もし、読者のみなさんが「日本的なクリスマス」に少し疲れたなら、騙されたと思って大きなパネットーネをひとつ買って、家族や友人と切り分けてみてほしい。生クリームのような派手さはないけれど、噛み締めるほどに味わい深いイタリアのクリスマスの魔法が、きっとそこにあるはずだ。それでは、Buon Natale!(良いクリスマスを!)



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マッシ=写真・文 池田裕美=編集

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