「服に相応しい自分でいたい」と思えるか
――実際に“服には人間の中身が出る”と実感した瞬間はありますか?昔、リーバイスの「501 XX(ダブルエックス)」のデニムを9万8000円で買えるチャンスがあったんです。しかもジャストサイズで、今なら数百万はするようなレベルの一本。でも……そのときは買いませんでした。「今はまだ早い」と思ったんですよね。
代わりに選んだのは、4万5000円くらいの「66モデル」。十分良いデニムなんですけど、店主が「よくこっちにしたな」と言ってくれた。あの瞬間、値段じゃなくて“自分に似合うかどうか”で服を選べたことが、価値観としてしっかり刻まれたんです。
お金さえあれば手に入る時代でも、大切なのは“その服に相応しい自分かどうか”。そこが本質だと思ってます。
――その価値観は、ボクシングにも通じている……?すごく通じますね。たとえばチャンピオンベルト。「誰から奪ったのか」「どんな試合で勝ち取ったのか」「どれだけ防衛できたのか」。肩書よりも、そこに込められた中身こそ価値。服もボクシングも、“積み重ねてきた背景”がすべてなんですよ。僕のスタイルには、どちらにも同じ軸があります。
――“売りつけない店”との関係性も魅力的です。本当にいい服でも「今の君にはまだ似合わない」と止めてくれる。買わせるのが目的じゃなくて、服と人の関係をちゃんと見てくれるんです。あの距離感は、信頼でしか成り立たないですよね。
——今後も“自分の価値を高めていく”という意識は変わらず強いですか?もちろんです。ボクシングに関しては、最初から中途半端にやる選択肢は無いんで。行けるところまで行く。そのためには、一つの負けも許せない。それが自分の覚悟です。
ドネア戦に向けては、ビッグネームと戦える楽しさは正直あります。でも同時に、自分にとっては二度目の防衛戦でもある。だから浮かれすぎず、フラットな気持ちで臨むことを大事にしてます。
楽しさと緊張、そのどちらも感じながら、丁寧に心を整えてリングに上がりたいと思ってます。

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リングに向かう姿勢も、服を選ぶ眼差しも、すべては自分を磨くという一点につながっている。堤 聖也は、強さを装うのではなく、積み重ねた時間で本物になろうとしている。
ドネアとの一戦は、その軸が真っ直ぐであることの証明になるはずだ。