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AIと共存し、思考力を維持するアクション。今すぐ始められる“依存しない使い方”の工夫とは

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――では、不安を抱えつつも、AIをうまく活用していきたいというビジネスマンに向けて、「共存」のための心構えや、今すぐ実践できるアクションがあれば教えてください。
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◆AIを「遊び」から導入し、完璧ではないことを知る

まず、「遊びからでもいいから使ってみること」。たとえばイラスト生成や雑談でもいいでしょう。完璧ではないAIの出力を実際に体験することで、その限界やクセを肌で理解できる。この認識こそが、鵜呑みにしない姿勢=クリティカルシンキングの土台になります。

◆効率的なファクトチェックのスキルを身につける

さらに、AIと上手に共存していくには、安全で精度の高いファクトチェックのスキルが欠かせません。生産性を損なわず効率的にファクトチェックを行うのに役立つ、具体的な4つのテクニックがあります。
① 複数のAIを使い分けるChatGPT、Gemini、Perplexityなど
各AIには、それぞれ異なる「クセ」や「間違え方(ハルシネーション)」があります。同じ質問を複数のAIに投げて比較すれば、食い違う箇所が明確になり、「ここが怪しいな」と気づきやすくなります。

② AIの回答にその出典は?と質問する
ソースがない場合は、AIが素直に謝り再出力することもあります。URLや論文が提示された場合は、必ず自分で調べて検証してください。提示された情報が確認できなければ、それはハルシネーションの可能性が高いと見てよいでしょう。
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③ 文章をAIにファクトチェックさせる
AI自身に「ファクトチェックして」と指示するのも有効です。その際、できれば異なる生成AIかつ、別セッションでチェックしましょう。同じAIやセッションで指示すると、AIが前の文脈を引き継ぎ「問題なし」と回答する可能性が高まるからです。

④ 固有名詞と数字を検索する癖をつける
ハルシネーションで特に注意すべきは、人名、会社名などの固有名詞や、日付、金額、統計データなどの数字の間違いです。AIの出力にこうした要素が含まれていたら、必ず自分で検索して裏を取る。このシンプルなひと手間が、あなた自身とビジネスの信頼性を守ることになります。
――どれも、すぐに始められそうなアクションばかりですね。その他に意識すべきポイントはありますか?

もう一つ大事なのが、「プロンプト(指示)の磨き込み」です。これは、AIを使いこなすうえで“究極の発注書”とも言える存在です。

曖昧な指示では、AIはこちらの意図を勝手に忖度して「それっぽい」出力をしてきます。それがクオリティ低下の大きな要因になってしまうのです。

大切なのは、「自分が本当に知りたいことは何か?」「何を検証したいのか?」を明確に言語化する力。

たとえば、あえて批判的な視点で答えさせる、条件を細かく指定するなど、思考を重ねたプロンプトをつくること自体が、最も効果的な頭のトレーニングになります。

AIは思考を奪う道具ではない。人間は「ゼロイチ」と「決定」に集中せよ

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ーー今後、AI時代における人間の役割は、どのように変化していくと考えますか?

AIの進化によって、私たちは情報収集やデータ整理といった“重たい作業”から解放されつつあります。そのぶん、人間の能力はより高度な思考活動へと集中できるようになる。今後のビジネスシーンにおいて、人間が果たすべき役割は、次の2つに集約されると考えています。

ひとつは、「ゼロから1を生み出す力」。AIは既存のデータの平均値を提示するのは得意でも、まったく新しい概念を創造することは苦手です。だからこそ、オリジナルなアイデアを出せる人間の価値は今後ますます高まるでしょう。

もうひとつは、「意思決定の責任を担うこと」。AIが導き出す客観的なデータや選択肢に対して、人間が持つ経験、倫理観、そして価値観を組み合わせて「判断する」プロセスこそが、ビジネスにおける真の価値が宿っています。

――確かに、AIは答えを出してくれても、「どれを選ぶか」の責任は委ねてこないですもんね。


そのとおりです。そして今後、AIが苦手とする「人間力」の重要性が圧倒的に増していくはずです。たとえば資料やトークスクリプトはAIが作れても、最終的に「この人と仕事したい」と思わせるのは、共感力や対話力といった対人コミュニケーションスキル。そういった“人にしか出せない空気感”が、ルーチンワークの価値が下がる時代において生き残るための鍵となります。

――最後に、この激変の時代を生き抜くためのマインドセットを、一言お願いします。

いま私たちは、人類史上初めて「自分より頭が良い存在」と共存する時代に入っています。AIという存在は、まさに産業革命級のインパクトを持つものです。しかも、このAIたちはまだ誕生して2〜3年という黎明期にある。これから、もっと驚くほど進化していくでしょう。

そんな激動期を生き抜くために、私が伝えたいことはひとつだけ。「思考を手放すな」ということに尽きます。

AIを使うこと自体が問題なのではありません。AIを使って「ラクをしすぎる」ことで、思考をしなくなることが最大のリスクなんです。

だからこそ、思考を止めない。問いを持ち続ける。使う側として、AIと対等に付き合っていく。それが、AI時代をしなやかに生き抜くための唯一の道なのです。


AIは、私たちの能力を奪う存在ではない。むしろ、生産性と創造性を飛躍的に高める最強のパートナーになりうる。この力強い結論を胸に、思考を止めず、問いを持ち続け、AIを使い倒していこう。そのスタンスこそが、激動の時代を生き抜くための、唯一の道筋となるはずだ。

岡田 圭(Verb)=取材・文 アントレース=編集

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