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2025.11.22

ライフ

上司、部下、取引先……相手と状況に応じて「褒めパワー」を最大値にする実践テク

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「褒めるのが苦手」と感じる中間管理職は少なくない。前編では、部下のモチベーションや組織の成果を高める「正しい褒め方」の基本を学んだ。
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しかし、実際のビジネスシーンでは、褒める相手は部下だけにとどまらない。上司、取引先、新規顧客、そしてときには初対面の相手に対しても、褒め言葉は信頼を築くための重要なコミュニケーションになる。

後編では、相手の立場や状況に応じて「褒め力」を最大限に発揮するためのフレーズやポイントを、具体例を交えて解説していく。

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聞いたのはこの人!
伊達洋駆さん●株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役。組織・人事領域の研究者として、科学的根拠に基づいたマネジメント手法を提唱。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』(すばる舎)、『組織と人を動かす科学的に正しいホメ方 ポジティブ・フィードバックの技術』(WAVE出版)など。

伊達洋駆さん●株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役。組織・人事領域の研究者として、科学的根拠に基づいたマネジメント手法を提唱。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』(すばる舎)、『組織と人を動かす科学的に正しいホメ方 ポジティブ・フィードバックの技術』(WAVE出版)など。

「誰に」「何を」伝えるか? 相手の立場と背景を読む言葉の選び方

――前編で「正しい褒め方」の原則を学びましたが、これは相手が誰であっても変わらないのでしょうか? たとえば部下だけでなく、上司や取引先など、立場によって褒め方も変える必要はありますか?
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そうですね。褒める効果を最大化するためには、相手の立場や置かれた状況によって、同じ言葉でもその響き方が変わるということは意識するべきです。

たとえば、「すごいですね」という言葉ひとつでも、状況に合っていなければ、かえって不信感を生むことにもなりかねません。だからこそ、「誰に」「何を」伝えるかを丁寧に見極めることが、信頼を築くうえで非常に重要なんです。

具体的にどんな言葉がふさわしいか、例をみていきましょう。

シーン別実践マニュアル! 成果と信頼を最大化する「褒めフレーズ」

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部下への褒め方──“プロセス”に光を当てて成長を支援する

部下に対しては、結果だけでなく、そこに至るまでのプロセス、工夫、努力を具体的に褒めることが重要です。

多くの場合、部下は「うまくいくかどうかわからない」という不安を抱えているもの。それを乗り越えて行動に移すためには、試行錯誤したり工夫したりする過程を、肯定的に評価してもらうことが求められます。

もし部下自身が「十分な成果ではなかったかもしれない」と、結果を気にしていたとしても、行動を起こした点を称えることで「失敗も成長の糧にできる」というメッセージを伝えられます。

きちんと認められると、部下は挑戦を恐れず、次の一歩を踏み出しやすくなります。
使える褒めフレーズ例
「手間を惜しまずに調査を続けてくれましたね。その粘り強さが次の成果につながるはずです」
「困難な局面でも、自ら率先して動く姿がチームの士気を高めてくれました」
「新しいアプローチを試してくれたこと自体が、組織にとって大きな価値になっています」

上司への褒め方──リーダーシップや支援への“感謝”を具体的に伝える

上司も人間ですから、自分の取り組みが部下から認められたと感じると、組織を牽引しようという意欲が高まります。普段の上司の振る舞いが助けになっていることを、「感謝」という形で伝えるのがよいでしょう。

このとき「助かっています」という抽象的な言い回しでは、ご機嫌取りに見えることも。上司の判断、意思決定、支援に対して、それが具体的に、自分にとってどう助かったのかを伝えましょう。
使える褒めフレーズ例
「先日のAという判断があったからこそ、迷わずに進めました。ありがとうございます」
「あの会議で方向性を明確に示していただけたことで、自信を持って取引先との打ち合わせに臨めました」

取引先への褒め方──専門性や貢献を“事実ベース”で伝える

お世辞にならないように注意しながら、相手の専門性や対応力、日頃の貢献を尊重し、事実に基づいて具体的に表現しましょう。適切なフィードバックは、信頼関係を築くだけでなく、「この会社にもっと貢献したい」という気持ちが働き、二者間の協力的な関係を強める効果もあります。
使える褒めフレーズ例
「いつも迅速に対応していただき助かっています。次のアクションが非常にスムーズです」
「〇〇に関する知見は、やはり御社ならではですね。とても頼りにしています」

新規顧客や初対面の相手への褒め方──考え方や価値観への共感を起点にする

まだ信頼関係が築けていない段階では、個人を直接褒めるのは避け、相手の考え方や話の内容に関心や共感を示すのが適切です。

競合他社の優れた点を認めて褒めるというものもあります。顧客に対して、客観的視点のある誠実な会社だという印象を与えることができるのです。
使える褒めフレーズ例
「そういう視点は、私たちにはない観点でとても勉強になります」
「その業界のトレンドについて、非常に詳しくいらっしゃいますね」
「A社の新製品にはチャレンジ精神を感じました。業界に新しい風が吹いていますね」

リモート時代の褒め力UP術。非対面だからこそ「具体性」と「即時性」が命

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――最近はチャットやメールなどテキストでのやりとりが主流になっています。そんな中で、効果的に褒めるコツはありますか?

テキストコミュニケーションでは、声のトーンや表情といった非言語情報が伝わりませんから、言葉の「内容そのもの」がより重要になります。つまり、具体性がこれまで以上に求められるということです。

たとえば、「さすが!」や「よかった!」といった抽象的な一言では、相手が何を評価されたのかわからず、素直に喜べません。「この資料のこの部分が、こういう意味でわかりやすかった。ありがとう」というように、より具体的に何が良かったのかを明記する必要があります。

――なるほど、伝え方に工夫が必要ですね。リモートならではのメリットはありますか?

「即時性」は大きな強みです。チャットなら、ポジティブな行動があったその瞬間にフィードバックができます。対面だと相手を探したり、タイミングを見計らったりする必要がありますが、会いに行く手間も、声をかけるタイミングをうかがう気遣いも不要です。

一方で、相手が見えない分、重要なフィードバックは、「会話の時間」をとることも意識しましょう。短時間のオンライン会議や電話でも、チャット以上に相手の心に届くことがあります。

褒めることを“習慣化”するには? 「感謝メモ」が最初の一歩

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――とはいえ、「褒めるのが苦手」という人も多いと思います。そんな人が今日からできる、最初の一歩はありますか?

最も簡単で効果的なのは、「ありがとう」と感謝の気持ちを言葉にすることです。褒めるのはハードルが高くても、「助かりました。ありがとうございます」と伝えるのは、多くの人にとって自然な行動ですよね。

それに加えて、相手の良いところや見習いたいところを観察し、素直に伝えることです。「こういうところを見習いたいと思います」と具体的に伝えるだけでも、立派なポジティブ・フィードバックになります。

――習慣化するためのコツはありますか?

「準備」が重要になります。日頃から「この人のこういうところ、いいな」と思ったことをメモしておくのがおすすめです。いざというとき、褒め言葉のストックがあることで、実践のハードルがぐっと下がります。

――メモを取る以外にも、続けるコツはありますか?

「予定に組み込むこと」ですね。たとえば週に一回、「部下にポジティブ・フィードバックを伝える時間」をカレンダーに入れておく。これだけでも、褒めることが習慣へと変わっていきます。

褒めることは、“信頼貯金”を積み上げること

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――最後に、40代の中間管理職が「褒めること」に取り組む意義について、メッセージをお願いします。

オーシャンズ世代のビジネスパーソンは、まさに“コミュニケーションのハブ”です。部下、上司、同僚、他部署、取引先……さまざまな立場の人との接点があるからこそ、あなたの言葉一つで相手の意欲を高めたり、チーム全体を活性化させたり、生産性を高めたりする可能性が秘められているのです。

また、褒めることは、部下を育てるだけのテクニックではありません。目上の人、横のつながり、そしてプライベートな関係性でも、信頼を築くために有効な「スキル」です。

そしてそれは、あなた自身の働きやすさや人間関係を豊かにし、やがては大きな“信頼貯金”として返ってくる。自分への最高の投資とも言えるかもしれません。

コミュニケーションの要となる世代だからこそ、この「科学的に効果が証明された質の良い武器」を、自信を持って使っていっていただければと思います!


単なる甘やかしではなく、想像以上の奥行きがあるとわかった「褒める」という行為。「相手への声かけに深みを持たせたい」「チームのコミュニケーションを前向きに変化させたい」と考えているのならば、相手の立場や状況を理解し、丁寧に言葉を選ぶことが、信頼を育む第一歩となる。

その小さな積み重ねが、やがて自身の「最強のスキル」となり、働き方や人生に、確かな変化をもたらすはずだ。

岡田 圭(Verb)=取材・文 アントレース=編集

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