科学者が見ている未来。「海はまだ可能性を持っている」
井植美奈子(いうえ・みなこ)さん⚫︎ディビッド・ロックフェラーJr.が米国で設立した海洋環境保護NGO[Sailors for the Sea]のアフィリエイトとして独立した日本法人「一般社団法人セイラーズフォーザシー日本支局」を設立。京都大学博士(地球環境学)・東京大学大気海洋研究所 特任研究員。総合地球環境学研究所 特任准教授。OCEANS SDGsコンテンツアドバイザー。
井植 ジェーンさんの発信は、いつも希望に満ちています。海洋が抱える課題を語るときも「海はまだ可能性を持っている」と必ず言ってくださる。国際会議でも、「持続可能な漁業を国際協調の中で築いていける」と呼びかけてくださって、その姿勢がとても心強いんです。
ジェーン ありがとうございます。海は今語られているよりも多くの「解決策」を秘めています。
例えば食料危機。多くの議論は陸の農業や家畜の話に偏りがちです。しかし科学者の間では、管理された持続可能な漁業を徹底すれば、現在の6倍もの漁獲量を維持しながら得ることができると試算されています。つまり未来の食料問題の答えは“海の中”にあるとも言えるんです。
気候変動の観点でも、海の力は過小評価されています。白化したサンゴ礁や温暖化の影響ばかりが語られますが、海洋は森林の10倍ものCO2を吸収できるとも言われています。マングローブの植樹や藻場の再生など、「ブルーカーボン」と呼ばれる仕組みがその力を引き出す。風力発電やグリーンロジスティクス
※の推進など、海洋はエネルギー分野でも未来のカギを握っているんです。
「海は被害者であると同時に、地球を癒やす治療者にもなり得る」。そのポテンシャルを多くの人に知ってもらいたいですね。
※船舶の技術革新や物流事業の再構築を通じて、環境負荷の低減を目指す取り組み
井植 セイラーズフォーザシー日本支局は、今年国連経済社会理事会(ECOSOC)の協議資格を取得したんです。ECOSOCは国連の3理事会の一つで、経済・社会分野の国際問題について議論や勧告を行う会です。協議資格を取得したNGOは、国連総会をはじめとする公式・非公式会議への参加や書面・口頭での意見の発言、サイドイベントの主催などが認められるようになり、活動の幅が一気に広がりました。
これからも、ジェーンさんの知見をさらに学びながら、日本の現場の声を国際社会へとつなげ、そして世界の議論を日本へ持ち帰る“架け橋”の役割を果たしたいと思っています。

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科学者と市民、政治と地域、そして国と国がつながるとき、海はきっと再び豊かさを取り戻す。それは壮大な挑戦のようでいて、私たち一人ひとりの選択から始まる小さな波だ。
井植美奈子さんとジェーン・ルブチェンコさん。二人の言葉が交わったその先に見えるのは、“守る海”ではなく、“生かす海”という新しいビジョン。そこには確かに、未来への希望の光が揺れていた。