
海洋研究と保全に取り組む一般社団法人「タラ オセアン ジャパン」が、2020年から3年間にわたって行った「Tara JAMBIO マイクロプラスチック共同調査」。その目的は、日本の海にどれほどのマイクロプラスチックが漂い、沈んでいるのかを明らかにすることだ。
その成果が、米国化学会の学術誌『Environmental Science & Technology』に今年8月掲載された。
▶︎すべての写真を見る 日本の海底は“見えないゴミ”のホットスポットだった
Tara JAMBIO マイクロプラスチック共同調査の調査地点
これまで多くの研究は、太平洋ゴミベルトのような、外洋の漂流ゴミに焦点を当ててきた。だが、今回のプロジェクトが見つめたのは、人と海がもっとも密接に関わる「沿岸域」である。北海道から沖縄までを網羅する調査の結果、表層水も海底堆積物も、全国的にマイクロプラスチックに汚染されていることが判明した。
平均濃度は、表層水で約289g/km²、堆積物ではおよそ1.2トン/km²。つまり、目には見えない小さな粒が、海底にはトン単位で積もっている計算になる。この数字は、日本の沿岸がマイクロプラスチック汚染のホットスポットであることを示唆している。
調査では、採取前10日間の降水量と表層水中のマイクロプラスチック濃度に強い相関があることも判明。雨が多ければ多いほど、陸地から海へゴミが流れ込む。つまり、汚染は「海の問題」ではなく「陸の問題」でもあるということだ。
養殖業に使用される資材も汚染源のひとつとして特定され、生活や産業活動の延長線上に、海の汚れがある現実が浮き彫りに。また、地方の海では予想を超える高濃度のマイクロプラスチックも確認され、廃棄物管理の地域格差が明らかになった。
表層水の結果:マイクロプラスチック濃度と場所毎のマイクロプラスチックのポリマーの割合
堆積物の結果:マイクロプラスチック濃度と場所毎のマイクロプラスチックのポリマーの割合
「リサイクルの努力は続いていますが、それだけでは限界があります。特にポリスチレンなどはリサイクル効率が低く、根本的には“つくる量を減らすこと”が求められています」と、タラ オセアン財団のエグゼクティブディレクターロマン・トゥルブレさんは強調する。
国際的なプラスチック条約の議論が停滞するいま、この研究は「科学が行動を後押しする」一歩となる。今後、タラ オセアン ジャパンは自治体や漁業関係者とも連携し、政策提言と現場レベルのアクションを推進していく予定だ。