連載「The BLUEKEEPERS Project」とは……OCEANS SDGsアドバイザーであり、海洋保全NGO「セイラーズフォーザシー日本支局」を率いる井植美奈子さん。その活動に新たなパートナーとして加わったのが、アメリカを代表する海洋生態学者、ジェーン・ルブチェンコさんだ。
長年NOAA(米国海洋大気庁)の長官として政策に携わり、世界の海洋保護を牽引してきた彼女が今、日本の海に目を向ける理由とは?2人が語り合ったのは、海の未来を守るための「科学と社会の共創」についてだった。
【写真9点】「ブルーシーフードが生む“地域発サステナビリティ”。ローカルからグローバルへ海洋保全の新しいかたち」の詳細写真をチェック出会いは10年前。海を愛するふたりが共鳴した瞬間
井植美奈子(いうえ・みなこ)さん⚫︎ディビッド・ロックフェラーJr.が米国で設立した海洋環境保護NGO[Sailors for the Sea]のアフィリエイトとして独立した日本法人「一般社団法人セイラーズフォーザシー日本支局」を設立。京都大学博士(地球環境学)・東京大学大気海洋研究所 特任研究員。総合地球環境学研究所 特任准教授。OCEANS SDGsコンテンツアドバイザー。
ーー地方自治体とブルーシーフードガイドを締結した経緯はどのようなものだったのでしょうか?井植 最初に発行したのは「三重県版」でした。地域の漁業を支える方々に光を当てたいという思いがあり、以前から交流のあった鈴木英敬知事(当時)にご相談したのがきっかけです。
そのあと、三重県と基本合意書(MOU)を締結し、県が保有する漁業の第1次データを共有していただけるようになりました。そのデータには国も未保有の情報が多く含まれており、我々にとって“宝の山”のようなもの。セイラーズフォーザシーとして、科学的な視点から評価を行えた貴重な経験でしたね。
この成功を足がかりに、広島県や京都府など、国際会議の開催地としても注目される地域とMOUを結ぶことができました。科学と政治の両方が歩調を合わせて進むことで、確実に成果を上げてきていると感じています。
井植 地方自治体の良い点は首長の意思がダイレクトに反映されやすいこと。決断も早く、パッションがすぐに形になる。そんなスピード感が地方自治体発の環境政策の強みだと思います。
その流れの中で「東京都版」も誕生しました。これは、三重県版をご覧になった小池百合子都知事から「東京は日本一広い海のエリアを有しているから、ぜひやってほしい」と声をかけていただけたんです。
東京は世界有数の水産物流通拠点でもありますから、流通の視点を重視した「流通水産物版」として策定しました。結果的に科学、行政、そして地域社会が連携する新しいモデルケースになったと感じています。
ジェーン・ルブチェンコさん⚫︎海洋生態学、気候変動、環境と人間のウェルビーイングの相互関係を専門とする世界的科学者。オレゴン州立大学名誉教授を務める。1996年から2006年まで米国国立科学財団(NSF)理事を歴任し、2009年から2013年には米国海洋大気庁(NOAA)長官としてオバマ政権の科学政策を牽引した。さらに2014年からは米国国務省初代海洋科学特使として各国で科学外交を展開。2021年から2025年まではホワイトハウス科学技術政策局にて気候・環境担当副局長を務めた。世界で最も論文引用数の多い生態学者の一人として、気候変動対策、漁業改革、沿岸生態系の回復、持続可能な海洋管理に多大な影響を与え続けている。
ジェーン 東京は、まさに世界最大級の水産物流通市場ですよね。私も来日するたびに、旧築地市場には必ず足を運んでいました。世界中からあらゆる魚種が集まってきて、その多様さと量のスケールに、毎回感銘を受けました。
あの場所は、海の恵みと人の営みが交わる“世界の交差点”のような存在ですよね。時差ボケで朝3時に目が覚めても、「築地に行こう」と思ってしまうくらい(笑)。私にとっては特別な場所です。
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