岳さんが絵を描き始めた理由
――今日はご自身で描かれている絵も持ってきてくださいました。岳 描き始めたのは、7〜8年前。コロナより前ですね。朗読劇でイッセー尾形さんと共演したとき、「役作りに悩んだら、その人物の顔を描いてみたら?」ってアドバイスを頂いたんです。試してみたら、台本を読むだけでは見えてこなかったキャラクターの内面が視覚的に浮かび上がった。そこから、役作りの一環として絵を描き始めました。
でも、続けるうちに、次第に役とは関係ない、自分の感情や葛藤をキャンバスにぶつけるようになって。たとえば、日頃の不満とか、抱えていたモヤモヤとか。それを絵にすることで気持ちが整理されたんです。真っ白なキャンバスって、何を描いてもいいし、誰に何を言われることもない。そこに自由を感じたんです。
実家で暮らす猫をモデルに描いた一枚。ストライプの背景に映えるまっすぐな瞳が日々のぬくもりを思い出させてくれる。
――衝動的に描き始めるタイプなんですね。岳 今はネガティブな感情を出すことよりも、ポジティブなテーマを形に残したい気持ちが強いです。小さい作品なら1日で下地を作って、その上から描き始める。大きな作品はもっと時間がかかります。でも大事なのは、“感情が動いたらすぐ描く”。それが自分のスタイルかもしれません。
情熱が湧く時期は3カ月に一度くらい。「書き殴りたい!」みたいな衝動が来るんですよね。
――普段着られている、白いツナギにもペイントの跡が垣間見えます。岳 古着で買った「ディッキーズ」の白い作業着なんですけど、描き続けていくうちに絵の具の跡がどんどん増えて。そのサマが今の自分を刻んでくれてる感じがして、気に入ってるんですよ。汚れ=進化、みたいな感覚かな。
その考え方の原点になったのが、インドに一人旅したときの体験なんです。偶然「ホーリー祭」っていう春のお祭りに遭遇して。現地では色とりどりの粉を皆んなで投げ合って、街中がとにかくカラフルになるんです。
現地で買った白い服があっという間に色だらけになって、それが汚れたというより、生きた証が刻まれたような気がした。あえて洗わずにそのままとってあって、旅の記憶が染み込んだ一着として大事な宝物です。
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