原価は度外視。環境にやさしい国産のモノづくりに振り切った

取り組みを始め、なぜ日本製の生分解性のビーチサンダルがない理由が見えてきた。
「そもそも、国内でビーチサンダルを作っている会社がすでに片手に収まるほどしかない。さらに、現在ではそんな状態ではあるものの、実はビーチサンダルは日本発祥のものであることも知らない方が多いのではないかと思います。
なぜ、国内メーカーがこんなに少なくなってしまったのか。理由のひとつが、安い海外製品の台頭です。ビーチサンダルの製造会社が多く集まっていた関西の地で阪神淡路大震災が起きたこともダメージとなり、だんだんと数が減っていってしまったのだと聞いています」。
「安いものがほしい」というニーズに応えるには、環境配慮よりも利益のことを考えたモノづくりをしなければならない。海外の人たちはユーザー自身が環境への意識を持っていますから、ニーズに応える会社側も利益より環境のことを考えたモノづくりをする必要があった。
「環境のことを考えたモノづくりは原価がどうしても上がります。さらに国産にこだわるとなると、半端じゃない原価になるんです。ですから、どのビーチサンダルメーカーさんも手を出せなかったのでしょう」。
それでも、大槻さんは環境に配慮したビーチサンダルを製作する手を緩めなかった。
「逆転の発想ですね。『だったら、徹底的に値段は無視して環境に良い国産のモノづくりにこだわろう』と決めたんです。私は、自分がモノを買う際、こだわって作られた質の良いモノであればいくらでも出すタイプなんですよ。じゃあ、そんな自分がほしくなるビーチサンダルを作ればいい。そう心に決めました」。(大槻さん)
開発にあたって大変だったことは、薬剤の仕入れ、そしてビーチサンダルとして使えるゴムの強度だった。
「ビーチサンダルの作り方自体は、一緒にやっていたビーチサンダル工房さんから教わったこともあり、基本の知識は持っていました。まず大変だったのは、生分解性の薬剤の仕入れですね。心に決めてすぐ行動に移したのですが、海外の企業と契約するまでに1年ほどかかりました。
そこから工場で生分解性の成分を混ぜて試作。これがまた難しかったですね。混ぜる量によって、サンダルの柔らかさが変わってしまうんですよ。硬くなったり、逆に柔らかすぎたり、ときには穴が空いたり……。ビーチサンダルとして使える良質なゴムのシートに行き着くまで、何度も割合を変えて試しました。
「SEA Bio-Foam」
苦難の末、生分解性発砲ゴムシート「SEA Bio-Foam」ができ、湘南ビーサンが完成したのは昨年の秋ごろだった。大槻さんはそのときちょうど、趣味の海外旅行をするつもりだったという。
「せっかくだから、ビーチサンダルの耐久テストができるユニークな場所に行こうと思い、オマーンに行きました。50度ほどはある砂漠を熱い砂浜に見立ててビーサンを置き、品質に変化がないかをいろいろと実験したんです。
ホームページなどに掲載している砂漠に置かれたビーチサンダルの写真は、合成ではなく私が自分で行って撮ってきたものなんですよ。砂漠に足跡がつかないよう、必死に腕を伸ばして軽く投げるようにして置き、撮影したなんていう裏話もあります(笑)。
よくよく考えてみたら、高温の砂漠をビーチサンダルで歩こうなんていう無謀な人はいないわけですが、湘南以上の気温でも品質に変わりがないことを確かめられたのは良かったなと思います」。
オマーンにて耐熱実験を行った際の写真
3/4