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黒人のカニエが何故「ヒトラー万歳」なのか?


ではなぜ黒人であるカニエがナチスやヒトラーへ傾倒するような言動を見せるのか。その背景には、宗教観の変化や人種観、陰謀論的な信念が複雑に絡み合っている。
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まず彼は近年、熱心なキリスト教徒として、日曜日にゴスペルイベント「サンデー・サービス」を開催するなど信仰を強調してきた。実際、彼のゴスペル音楽アルバムはビルボードの信仰音楽部門を総なめにした実績もある。しかしその宗教的言動は近年変質し、「黒人こそがユダ族の失われた12支族、すなわちキリストの血統だ」というような発言まで飛び出すようになってしまった。

本人いわく「これはキリスト教徒としての自分の信念」だとし、キリスト教的世界観と人種アイデンティティを独自に融合させているのだ。


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この発言はブラック・ヘブライイズム(黒人イスラエル主義)の典型的な教義と一致してる。要するに「アフリカ系アメリカ人こそが古代イスラエルの真の子孫であり、本来のユダヤ人だ」という主張で、現実のユダヤ人は自分たちの“選民”としての身分や「生得権」を盗んでいるという陰謀論的な含意を持つものだ。

カニエ自身、「黒人もまたユダヤ人なので自分は反ユダヤ的になり得ない」と公言し、ユダヤ人による闇のアジェンダが自分に敵対していると示唆するメッセージまで投稿した。彼はインタビューでも「地下に潜むユダヤ人マフィアが自分を狙っている」「“反ユダヤ”という言葉自体を信じない」と発言しており、典型的なユダヤ人支配に関する陰謀論を信奉している様子が伺える。

こうした主張はルイス・ファラカーン率いるネイション・オブ・イスラムや極端な黒人ヘブライ派の一部とも共鳴し、実際に極端派の黒人ヘブライ・イスラエル主義団体からカニエの発言が称賛される事態にもなった。



一方で、ナチスやヒトラーへの言及は彼の過去の言動とも表裏一体である。元々カニエは「ジョージ・ブッシュは黒人を気にかけていない」とTVで糾弾したり、楽曲で人種差別を批判する立場だった。

しかし近年はトランプ大統領への支持や「ホワイト・ライブズ・マター」シャツの着用、さらには「(黒人が)400年間も奴隷でいたなんて、それは選択だったように思える」といった発言で物議を醸し、黒人社会やリベラル層を失望させた過去もある。

こうした挑発的で常識はずれな発言は、彼が以前から持つ一貫したパターンとも言える。

実はカニエは2018年頃からヒトラーに異常な関心を抱いていたと報じられており、「ヒトラーは権力をこれほどまで蓄え、ドイツ国民のために素晴らしい偉業を成し遂げた」と賞賛し、当時リリース予定だったアルバムに『ヒトラー』と名付けたがっていたという証言もある。

2018年のインタビューでは「奴隷制は(黒人にとって)ひとつの選択だった」と発言しスタジオの黒人スタッフから激しく非難された件も含め、表現方法こそ変われど彼の言動には常に世間を挑発する矛盾と過激さが付きまとっている。

カニエの自己表現と反権威的姿勢


では、なぜ彼は敢えてナチス的な言葉やシンボルを選ぶのか? その背景には彼独特の自己表現欲求と反権威的姿勢がある。

カニエは一連の騒動の中で「ヒトラーについて語ることを正常化していく」と宣言し、X(当時のTwitter)にはユダヤ教の星(ダビデの星)に卍(ハーケンクロイツ)を組み合わせた画像を投稿するなど挑発をエスカレートさせた(この投稿によりアカウント停止処分も受けている)。

カニエはかつて「みんなにやるなと言われることをやることで自由を感じた」とMAGA帽着用を正当化しており、タブーを破る行為そのものを自己の創造性の発露だと考えている節がある一面も見せてきた。



それゆえヒトラー崇拝という最大級のタブーすらも、彼にとっては権威や社会通念への挑戦であり、一種の「表現手段」となっているのだ。事実、彼は今回注目された物議を醸す新曲に挑発的なタイトル『ハイル・ヒトラー』と名付けて発表しようとし、前述したとおり、楽曲の最後にはヒトラーの演説音声をサンプリングまでしているのだ。

これは明らかに世間の反応を煽る狙いがあり、本人も「メディアに再び取り上げられるための争い」を辞さない姿勢が伺える。専門家からは「カニエやキャンディス・オーウェンズのような人物は過激派のスローガンを意図的に派手に利用してリベラル派をトロールし、それを繰り返すことで過激な言葉を一般化させようとしている」と指摘している。



総じて、カニエのナチス礼賛は、彼の精神状態の不安定さとは別に、信念というよりは彼の混迷した宗教・人種観と反エリート的な陰謀論世界観、そして常識への反逆というパフォーマンス性が結びついた結果だと言えるだろう。

2025年のカニエの姿勢と言動は、彼の影響力の大きさゆえに社会へのインパクトも甚大であり、称賛と批判の両極端な反応を巻き起こし続けている。今後も彼の発する言葉や音楽がどのように受け止められ、どんな影響を及ぼすのか、引き続き世界的な注目と議論の的になっていくことだろう。

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ショットガンダンディ=文 佐藤ゆたか=写真 池田裕美=編集 
マンハッタンレコード=撮影協力

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