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誰かに追いかけられる夢、殺されそうになる夢、高いところから落ちる夢……。
誰しも、こうした後味のわるい「悪夢」を見た経験があるだろう。恐怖でハッと目が覚めたとき、「いったいなぜそんな夢を見たのか?」と不思議に思うこともあるはず。
じつは、夢は単なる偶然の産物ではなく、その人の心理状態を反映しているとも言われている。
今回は、東洋大学社会学部社会心理学科教授で「夢」に関する研究を行なっている松田英子先生に、悪夢を見る理由やその対処法について話を聞いた。
聞いたのはこの人!
松田英子さん●東洋大学社会学部社会心理学科教授。臨床心理士として活躍し、江戸川大学教授、放送大学大学院客員教授などを歴任。主な著書に 『はじめての明晰夢―夢をデザインする心理学』(朝日出版社)や『1万人の夢を分析した研究者が教える今すぐ眠りたくなる夢の話』(ワニブックス)など。
誰もが毎晩3〜5つの夢を見ている! 夢を見るメカニズムって?

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――夢は、見る人と見ない人がいるようですが、実際どうなのでしょうか?私たちの睡眠には「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」という2つのステージがあります。レム睡眠中は「身体は休んでいるけれど、脳はアクティブに活動している状態」です。私たちの記憶に残るようなストーリー性のある夢を見ているのは、主にこのレム睡眠中だと考えられています。
ただ、レム睡眠の後に目が覚めずにそのままノンレム睡眠に入ると、その夢を忘れてしまうことが多いんです。普段から夢をほとんど見ないという人もいますが、じつは誰もが1日に平均で3〜5つの夢を見ているんですよ。覚えている夢は、目覚める直前にレム睡眠だった場合が多いです。
――そもそも、なぜ人は夢を見るのでしょう。夢を見る理由は「記憶の整理」と深い関係があります。
人の脳をパソコンのハードディスクに例えるとわかりやすいかもしれません。容量が限られているなかで、よく使うファイルもあれば、使用頻度は高くないけれど絶対に消せないデータもある。
何をとっておくか、いらないものは何か、取捨選択しながら脳の記憶を整理している過程で見るのが「夢」なのです。
――夢には記憶を整理する役割があると。その中でも感情を伴う「悪夢」は記憶として強く残る傾向があります。
これも、生命の危険を感じるような記憶を保存しておくことで、そのような危機が実際に起きた時にどう対処するべきかを脳がシミュレーション(予行演習)していると考えられるからなんです。ゾッとするような悪夢はなるべく見たくないものですが、ある意味では、悪夢自体が危機回避のために必要な機能だとも言えるんです。
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――なるほど。嫌な夢を見ることで、実生活で起こりうるピンチにどう対処するかをシミュレーションしているんですね。じつは、悪夢は世代や性別、人種などを問わず、世界的に共通して同じような内容を見ているという研究データもあります。「追いかけられる」「殺される」「死ぬ」「落ちる」「飛び降りる」などのワードは、「物理的な生存の危機」に関する悪夢の代表例です。また、火事や震災など自然災害の夢も一定数あります。
それ以外にも、人間は「社会的な生存の危機」にも敏感です。例えば「間に合わない夢」がその例。「締め切りに間に合わない」「取引先とのアポに間に合わない」「電車に間に合わない」などの焦りを伴う嫌な夢は、それらの失敗によって周囲の人から失望され、社会的な立場を失ったり、自分自身に嫌悪感を抱いたりすることへの危機感を反映しているのです。
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