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名店① 都内人気店の間借りから独立「一条流中華そば智颯」


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1軒目にご紹介するのは、「一条流中華そば智颯(ちそう)」。

同店は、都内のラーメン店の中でも熱狂的なファンを数多く抱えることで知られる「一条流がんこ総本家分家四谷荒木町(がんこ四谷荒木町)」の系譜に連なる1軒。

上述したとおり、「智颯」は、「がんこ四谷荒木町」の間借り営業としてスタートした店。
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詳しくは、「がんこ四谷荒木町」の助手を務めていた小池氏が、2022年10月から週に1日、「智颯」の屋号を掲げ、店長として「がんこ四谷荒木町」の店舗で営業を開始。この「智颯」が満を持して小池氏の地元である三島市へと凱旋移転。2024年5月、晴れて店主・小池氏が切り盛りする独立店舗としてオープンを果たしたという経緯だ。

店舗の場所は、JR三島駅、長泉なめり駅から、ともに1.3km程度。ネット上では、「JR長泉なめり駅が最寄り」と記載されているものが大宗を占めるが、JR三島駅からの距離もほぼ同程度。三島駅からアクセスした方が、駅から店までの行程が単純かつ三島駅(JR東海道本線)の方が圧倒的に交通の便が良いことから、特段の事情がない限り、こちらからアクセスすることを推奨したい。



同店の営業時間は、原則として朝の9時から昼の14時まで。これは、修業先である「がんこ四谷荒木町」の営業時間に準拠した形だが、図らずも、静岡県中西部は朝ラーメン文化の本拠。静岡県のラーメン好きが朝から営業する店への対応に慣れているということもあって、県外から見ればやや変則的なこの営業時間も、違和感なく受け入れられているようだ。



「智颯」では複数のレギュラー麺メニューを用意し、かつ静岡県のラーメンマニアが大好きな限定メニューも数多く揃えるが、今回訪問時、私は、「コッテリ(塩)」と「智颯100」という品名に屋号を冠したレギュラー商品をいただいた。

「コッテリ(塩)」は、スープの完成度が目をみはるほど高く、ひとすすり目から、「あ、このスープはちょっと次元が違う」と、あらゆる食べ手に悟らせるだけの魅力を持ち合わせる。キレとコクとが寸分の齟齬なく睦まじく共存し、カエシも、瞬く間に鼻腔と味蕾を幸福の境地へ誘う。
 最初にいただいた「コッテリ(塩)」。

最初にいただいた「コッテリ(塩)」。


素材として採用されている貝柱、シイタケ等から上質なうま味がとばしり、ひとたびすすり始めたら最後、レンゲを持つ手を止めることは至難の業だ。

舌がとろけるような背脂の甘みも、この1杯の引きの強さをさらに増幅させる役割を全う。麺とスープの相性も「水魚が交わるがごとし」であり、あっという間に、丼を空っぽにしてしまった。

続いていただいた「智颯100」の出来映えも、「コッテリ(塩)」に勝るとも劣らない。こちらは、カエシ不使用。出汁は、各種素材のうま味を技術の粋を凝らし、限界以上に搾り取り、ひと所に結集させたもの。その出汁を、スープとして真正面から提示する革新的な1杯だ。

2杯目の「智颯100」。

2杯目の「智颯100」。


牛・豚・鶏の動物系三銃士が、煮干し・節等の魚介素材と混ざり合い、舌上で猛々しく咆哮するサマは、食べ手を魅了するに余りある。店内連食の2杯目であるにもかかわらず、どうしても抗し切れず、喉音を立ててスープまで完飲してしまった。

どの商品にも、作り手の「作品に対する思想(イズム)」が余白なく投影され、食べ手は味のみならず、イズムにも酔いしれることができる。地方に移転しても、そのイズムの表現ぶりを一切緩めることなく、全身全霊で、修業先で学んだ味を紡ぎ続ける。三島市は、途轍もなく貴重な戦力を得た。同店が、三島のラーメンシーンをけん引する役割を担う日が来るのも、遠い先のことではないだろう。
一条流中華そば智颯(ちそう)
住所:静岡県三島市幸原町2-15-37
営業:9:00〜14:00
定休:火曜・金曜日(ほか不定休あり)
X @chisou2022

名店② 絶対王者のDNAを引き継ぐ「麺屋みのまる 三島店」



かつて、三島市には、「めん処 藤堂」という絶対王者が存在した。

その絶対王者ぶりたるや、三島市が属する静岡県東部のみならず、「藤堂こそ、静岡県を代表するラーメン店」と断言する人も多かったほどで、「県外のラーメン好きが静岡で最初に訪れるべきは藤堂だ」という考えが、2010年前後は、根強かったところである。

何を隠そうこの私も静岡県における初訪問店は「藤堂」だった。いただいた1杯は、確かに重厚なうま味を巧みな技術ですっきりとまとめ上げた「格の違い」を感じさせるもので、「これを超える味を出せる店はなかなか出てこないだろう」と感じたことを、今でもよく覚えている。

そんな「藤堂」が2017年3月、店を畳んだことはラーメン界に衝撃を与えた。特に静岡県東部のラーメン界にとっては大きな衝撃だったに違いない。ただ、「藤堂」が閉業してもそのDNAは完全に失われたわけではなかった。絶対的な存在だったからこそその味を受け継ぐ店舗が現れ、今でもなお、名店「藤堂」の存在は、有形無形の財産となって三島市のラーメンシーンに深く根を下ろしている。



そんな「藤堂」ゆかりのお店のひとつが、2021年8月に開業した「麺屋みのまる 三島店」だ。本店は神奈川県厚木市にあり、「三島店」は、静岡県初進出店舗となる。

店舗の場所は、かつて「藤堂」があった場所から徒歩圏。私は今回、伊豆箱根鉄道駿豆線・大場駅から徒歩で「三島店」へとアクセスしたが、行程の最終盤を除けば、「藤堂」と同じ道順を辿れるほど、両者の場所は近接している。

さて、「みのまる」における私の推奨メニューは、「ゆず塩らぁめん」。注文時、「細麺」と「太麺」の2種類から麺を選べるが、「細麺」がデフォルトなので、そちらをオススメしたい。
 

透明な黄金色のスープは、動物出汁と魚介出汁とを、絶妙なバランス感覚で掛け合わせたもの。強いて言えば、魚介の滋味を相対的に前面へと押し出しており、それによって、「和」の趣を色濃く感じさせる味わいに仕上がっている。比較的明瞭にうま味を表現しているにもかかわらず、しつこさが皆無である点は、まさに「藤堂」譲りだ。

麺とスープの相性も良好。麺のすすり心地も申し分なく、中盤から徐々に姿を現す柚子香の後押しも相まって、実にテンポ良く食べ進めることができた。三島市で今、必ず訪問しておきたい優良店のひとつだ。
麺屋みのまる 三島店
住所:静岡県三島市安久489-7
営業:11:00〜14:30/17:30〜21:00 土日祝は11:00〜15:00
定休:火曜夜の部・水曜日
Instagram@minomarumishima
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