連載「HIPHOP Hooray feat.SGD」とは......「最も偉大なラッパー」としてアメリカのHIPHOPシーンではもちろん、エンタメ界においても成功者として知られるJay-Z。昨年の
ディディ逮捕事件の影響もあって注目されたが、実はJay-Zには知られざる影の少年期がある。
HIPHOP翻訳・解説で活躍するショットガンダンディさんが、彼のハードボイルドな人生をクローズアップする。
案内人はこの方!
ショットガンダンディ(ShotGunDandy)●HIPHOP翻訳家。幼少期から沖縄で育ったマルチリンガルのアメリカ人。HIPHOPの深い知識を活かして楽曲の和訳やスラング、メッセージやリリックの意味などをYouTubeなどで解説し話題を呼んでいる。ビートサンプラーバトル「King of Flip 2023」ではベスト4入り。Instagram:@shotgundandy X:@ShotGunDandymk3
影を背負い、光を生んだ「帝王」Jay-Zの人生
皆さん、いかがお過ごしでしょうか? ShotGunDandy参上です。
さて、最近ディディ(Diddy)事件の影響で再び注目を浴びたJay-Z。2000年代初頭、ディディと一緒に当時13歳の少女に性的暴行を加えた疑惑で民事訴訟を起こされていたが、原告が弁護士に無理やり訴訟を起こすように促される中で嘘をついたことを認め、先日その訴えを取り下げたばかりである。
真相が公になることはなかったが、この報道を機にヒップホップ界最大級の成功者であり、黒人コミュニティだけでなく、アメリカ全体の文化的象徴ともいえるJay-Zという男の人生が、改めてクローズアップされている。
貧困、暴力、ビジネス、愛、葛藤、勝利。今回はその半生を、振り返っていこう。
NYの団地で育った12歳の少年、兄を撃つ
Jay-Z、本名ショーン・コーリー・カーター(Shawn Corey Carter)は1969年12月4日、ニューヨーク・ブルックリンの「マーシー・プロジェクト」と呼ばれる低所得者向け団地に生まれた。父親はJay-Zが11歳のときに家を出ており、母・グロリアによって育てられた。
彼が少年時代に育った地域は、ドラッグと暴力が日常にある世界だった。そんな環境の中で彼の人生を決定づける出来事が起こった。12歳の時に
兄を銃で撃ったのである。
兄が彼の大事にしていたアクセサリーを盗み、口論の末にJay-Zが拳銃を手に取り、兄を撃ってしまったのだ。幸い命に別状はなかったが、Jay-Z自身が後年語るように「怒りと混乱と衝動」が交錯したこの体験は、彼の精神に深く刻み込まれた。

ちなみに、兄は当時流行っていたクラックコカインという薬物の中毒者となっていたが、Jay-Zに撃たれたことにより目を覚ましたらしく、のちに撃たれたことを感謝したと語られている。
その当時、ブルックリンは社会問題になるぐらいクラックコカインが流行っていたため、Jay-Z は10代後半からは高校を中退し、コカインのディーラーとしてストリートで稼ぐ生活へと移行していった。
彼がラップで描く「ハスラーのリアル」は、まさにこの時代の体験をベースにしているのだ。
2/6