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歴史も引き合いにして黒人文化を強調


クライマックスを迎える前、再び女性たちと話すケンドリックが、重要な3つのフレーズを披露。

①「カルチャーは分断してるけど、俺はそのまま進むぞ」。
これは多人種国家であるアメリカ内で起きている分裂のことを意識したフレーズだ。

②「40エーカーの土地と1頭のラバ、これは音楽より大きい問題だ」。
これは奴隷制度が廃止されるにあたり、アメリカ政府が奴隷たちに与えると約束したものである。約束を破られた黒人たちにとっては忘れることができない歴史だ。

さらに“これは音楽より大きい”と示すことで、今回のショーが黒人文化を意識しているのが、確定する場面である。
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 ③「やつらはゲームを改ざんしようとしたけど、この影響力を真似することはできない」。
これは黒人たちがアメリカに与えた多大なる影響が、無視できないものであると訴えている。

音楽、スポーツ、ファッション。実際、数多くのトレンドを生み出したのも黒人だ。何より、スーパーボウルの舞台でパフォーマンスしているHIPHOPも、黒人が生み出したものなのである。


いよいよ『Not Like Us』を披露。「Not Like Us」とは「奴らは俺らとは違うんだ」という言葉のニュアンスを持ち、黒人と白人の違いを訴えている。「US」は「アメリカ」という意味にもなるので、「こんな問題だらけの状況は本当のアメリカじゃないはずだ!」という訴えでもある。

一見人種差別による「分断」を促しているように見えるが、実は「アメリカで生きる黒人の功績を認め、真の平等に向かおう!」という政府への訴えなのである。

強い意志を保ったまま『tv off』につながっていくが、曲のタイトルは文字通り「テレビを消せ」という意味だ。

これは冒頭の「これは革命だ」発言の伏線回収であると同時に、オマージュしているギル・スコット・ヘロンのタイトル『革命はテレビ放映されない』とも結びついている。

このショーが革命でもあるが、本当の革命はこのショーが終わったあとに起きるぞ! という暗示でもある。実際、ショーの最後に「テレビを消せ!」と連呼しながらリモコンを消す動作をしてショーは終了。最後にはモニターに扮する観客席に「GAME OVER」の文字を浮かべたのである。

このゲームをプレイさせられていたのは政府なのか、ケンドリックなのか、はたまた観客の我々なのか? その問いを突き付けて終わらせる粋な計らいである。



私の解釈としては「政府の思惑通りに生きず、黒人というルーツに誇りを持て!」という黒人コミュニティへのエールであると共に、アメリカに生きる国民全員に対しても「お互いの文化を理解し合いながら生きて行こう!」というメッセージだと思っている。

多人種国家であるアメリカならではの描写だが、アメリカで最も観られるショーでのケンドリックのパフォーマンスに対しては、案の定賛否という名の分断が起きている。

「革命を起こす」と宣言したケンドリックの思惑通りなのか? 相変わらず政府が仕掛けてきたゲームの支配下にあるから起きている分断なのか? すべての判断はそれぞれのプレイヤーに委ねられるのだ……。

いかがだろうか。ぜひ、このケンドリックのストーリーを知った上で、もう一度ハーフタイムショーをお楽しみいただきたい。

ショットガンダンディ=文 佐藤ゆたか=写真 池田裕美=編集 

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