『luther』でR&Bシンガー・シザ登場
次の曲に行く前に、4人の女性との会話でケンドリックが発したフレーズも重要である。
「そろそろ大人気のあの曲を披露したいけど、訴訟を起こす人が多いから迷っているんだよね」と発言し、シザ(SZA)と歌う『luther』という落ち着いた曲に移行する。
女性たちに相談する描写も、黒人コミュニティにとって、女性がどれだけ大事なのか表している。
さらに「訴訟を起こす人が多い」というフレーズも、実際アメリカは訴訟を起こす人が多い国であることに対する皮肉である。ここで述べた「大人気の曲」はもちろん注目を集める『Not Like Us』のことだ。
アンクル・サムに減点を喰らったばかりのケンドリックは、政府の思惑に従い、シザと一緒に『luther』と『All the Stars』という落ち着いたテイストの曲を連続で届ける。
この間、多数のダンサーたちは規則正しく動く。ケンドリックが政府の思惑通り生活をしていることを示す描写である。さっきの減点が刑罰の比喩でもあることがわかるが「執行猶予中で大人しくしているだけ」という描写もしているのだ。
『All the Stars』というタイトルは「すべての星たち」という意味だが、希望に溢れる若い黒人たちが刑務所送りになったり、殺害されてしまったりする状況を意識した曲であり、苦しい環境の中で生き抜きながらも夢を見る若者へのエールである。
ここで最後のアンクル・サムの登場。
「そうだ! この落ち着いた感じの曲をアメリカは求めているんだ! もう少しで終わりだから、最後までそのままの調子でやってくれよ!」と発言するも、途中で『Not Like Us』のイントロが流れ始める。
「政府のいうことを聞け? コントロールされたままで生きろ? そんなのは嫌だ! 俺たちのルーツを重んじて、俺たちの人権の為に革命を起こすのだ!」アンクル・サムがコントロールしているゲームを完全に無視し、自身のゲームという名の革命を、全面的に表明する瞬間である。
4/4