オープン直後にコロナが襲来
しかし、オープンしてすぐコロナ禍に突入した。ご飯ものを出したり、テイクアウトをやったりといろいろと試行錯誤したがすぐにキャッシュが溶けてしまった。その後、お客さんに求められているものを磨いていかないといけないということで、メニューを絞って営業を続けた。
日本を代表する屈指の行列店を作った店主の篠塚浩一さん(真ん中)が目指したのは、「働きたくなる店」だった。弟の大介さん(左)と鈴木貴也さん(右)という、最高のメンバーで店は運営されている(筆者撮影)
すると、2020年の途中から徐々にお客さんが戻ってくるようになった。神様が「生きろ」と言ってくれているんだと篠塚さんは気持ちを取り戻した。この頃、新たな仲間として鈴木貴也さんが加わり、店の雰囲気が一気に良くなってきた。
「飲食店をやっていてノーゲス(お客さんが一人もいない状態)のときがあると思います。ノーゲスは世界に80億人の人がいて誰一人に必要とされていないということ。これは正気の沙汰ではありません。
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こう考えてみると、来てくれるお客さん一人ひとりに感謝するようになります。
うちは幸いにもお客さんが毎日来てくださるお店ですが、行列のときも行列をさばくマインドではなく、最後の一人のお客さんにまで来てくれてありがとうという気持ちになるんです」(篠塚さん)
(筆者撮影)
「YOKOKURA STOREHOUSE」はオープン前から20人ほど行列し、営業時間内に行列が途絶えることはない。週末は駐車場待ちも出るほどの大盛況だが、行列に並んだ最後の一人が食べ終わるまでしっかりと営業する。
売り切れ終了はできるだけないように努力し、営業時間は営業のために使い、その時間内に片付け始めることはないように心がけている。
「私は人との出会いに恵まれました。そこに自ずとお客さんの数もついてきたと思っています。“人”は食材以上に大きな価値です。この店を作ってから人が好きになりました。
チームが夢中になれるものならラーメンじゃなくても何でもいいと思っています。お客さんたちが『こいつら頑張ってるな』『いいチームだな』と思ってくれる店が理想です」(篠塚さん)
調理中の篠塚さん。惚れ惚れとする、逞しくもしなやかな所作だ(筆者撮影)
従業員の鈴木さんも「お金や名誉よりも、この店で働く楽しさや働き甲斐が大事だと感じるようになった」と話す。
今回の「つけ麺日本一決定戦」に出場することにおいても、迷いはあった。果たして日本一を獲る必要があるのかという議論にもなった。
しかし、篠塚さんはイベントで結果を残して、授賞式でラーメン店で働くことの誇りを伝えたかった。メンバーにもそれを伝えて、全力で出場することにした。
出場することに迷いがあった「つけ麺日本一決定戦」。ラーメン店で働くことの誇りや喜びを伝えた(写真:「大つけ麺博」提供)
「イベントに出ていろんな人とつながれて、自分と同じような考えを持つ方が他にもいることを知りました。これがきっかけで同志が増えたら、日本中にいいお店が増えていくかもしれないなと思っています。我々は日本一に胡坐をかくことはありません。
先人には敬意を持ち、たとえ僕らが絶望に打ちのめされたとしても若者に希望を与えられる世代でありたいと思いますし、若い世代に『真剣に働くと仕事も面白い』ということを体現し、伝えたいと思っています」(篠塚さん)
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