サメたちと意思の疎通は図れない
アクアワールド茨城県大洗水族館 吉川隼人さん●1997年、神奈川県生まれ。熱帯魚やサンゴなどが好きだったことから海洋生物について幅広く学べる日本大学生物資源科学部海洋生物資源科学科へ。卒業後、現職(魚類展示課の技師)に。ウエットスーツを着用して水槽に入り餌やりや掃除などの業務を通し、サメをはじめとする海の生き物と触れ合う。行ってみたいのはジンベエザメがいる、アメリカ最大のジョージア水族館。
サメの魅力について飼育員の視点からも教えてくれた。基本的な仕事は、朝から水槽を見回り、餌をあげ、掃除をするといったものだ。
そして触れ合いの日々から、一匹一匹に個性があることや、種類によって特性が異なることを知ったという。
「熱帯魚やサンゴ好きが高じて水族館勤務を目指したため、サメとの付き合いは当館に来てから。事前の知識はそれほど多くありませんでした。
捕食についても、それまで持っていたイメージは先入観でしたね。ガツガツ食べると思っていたんです。でも実際の餌やりは、泳いできたサメの頭の先あたりに飼育員が餌を投げるといったかたち。
水槽の上のほうと下のほうに分けて落とすことで、サメ同士で取り合いにならないよう配慮はしていますが、みんなとても静かな食べ方をしています」。
餌を見つけたら一気に襲いかかるわけではないというのだ。ときに聞こえてくる野生のサメと人による報道には悲しいものがあり、その一例は海外でのシャークアタック。
サーファーがサーフィン中に襲われるもので、サメの獰猛さを連想させる。だが吉川さんは「餌との勘違いが要因だろう」と言う。
「サメたちは種によって特性が異なりますが、多くは匂いを頼りにして餌を探しているといわれます。
まずは匂いで感知して、音で方向を定め、捕食できる距離まで行ったらしっかりと自分の目で見極める。それが彼らの捕食の仕方です。
サーファーへのアタックも、何かが動いている音を感知し、水面で動いている様子を見てオットセイなどだと思って襲うということなのでしょう。
一気に襲うこともないと思います。ちょんちょんと様子を伺いながら、自分に危害は及ばないと感じてから行動に移していきます」。
過去に発表された文献や、アクアワールド茨城県大洗水族館が蓄積してきた知見、そしてみずから体感する飼育を通しての見識だ。
ほとんどの魚類とのコミュニケーションは「取れない」ことが大前提。「できるのは真摯に向き合うことのみ」と吉川さんは考え、飼育員としての業務をまっとうすることで生態への洞察を深めているのである。
「サメは人に慣れることがありませんし、毎日観察して、基本の状態をしっかり把握することが大切になってきます。そうしないと異変に気付けないんです。
シロワニであれば、ゆったりと泳ぐのがノーマルな状態。ところがオスの発情期になると泳ぎが速くなったりします。メスを追いかけるような行動も見られたりする。
そのような普段とは違う状況が見られた際には、別の水槽へ移したり、病気であればそのうえで治療を施します。
泳ぎ方、速度、呼吸、餌の食べ方や泳ぐ場所などに注意し、いつもとの違いに気を配るのは常に意識していることですね」。
飼育個体数の少ない種のサメは個体管理を行い、多い種は「水槽全体の中で異なる動きを見せる個体はいないか」という目を向ける。そうしてサメたちの健康を見守っている。
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