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便秘には2つのタイプがあった

――便秘対策には腸活が効果的だと思っていたのですが……違うのでしょうか?

そもそもですが、「便秘」とは「便を秘める」ことを指します。決して「便が出ない」ことではありません。ところが多くの人は「便が出ない状態」を、便秘だと思っています。

そしてまさしく「便秘=腸」という認識を持っている人がほとんどでしょう。なぜなら、世の中に溢れる便秘情報のほとんどが腸に関するものだからです。

いったん、便秘をシンプルに2つに分けて考えてみてください。「おなか(腸)の便秘」と「出口(肛門)の便秘」です。これらは、便がどこで停滞しているのかで分類します。
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腸は便を作って運ぶところ、出口である肛門は送り届けられた完成品である便を出すところ。どちらで便が溜まっているのかでタイプが異なります。当然、治療も違ってきますので、自分がどちらのタイプかを見極めることはとても大切です。

私の患者さんも、いろいろな便秘外来を受診したけれど、どこも似たような下剤や漢方薬を出されるだけで、残便感は解消できず不快なまま……というような方が多くいます。これらは、実に8割以上が「出口の便秘」だったのです。

――「おなかの便秘」と「出口の便秘」の2つのタイプがあり、多くの人は出口の便秘に該当しているのに気づいていないということですか。

そうなんです。「便秘には〇〇が効く」という情報を鵜呑みにして、食物繊維や乳酸菌、野菜や果物、おなかのマッサージ……と、大腸に働きかけることばかりしています。しかし問題は「出口(肛門)」で起きているので根本解決にはなりませんし、的外れな便秘治療になってしまいます。

残った便があらゆるトラブルを引き起こす

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――では出口の便秘を放っておくと、どのようなトラブルが引き起こされてしまうのでしょうか。

毎日便が出ていてもスッキリ出ずに中に便が残っていたら「出口の便秘」です。残った便は肛門に様々なトラブルを引き起こします。
温水便座症候群
スッキリ排泄出来ていれば、トイレットペーパーに便は付きません。何度拭いても便が付く、キレイにならないからウォシュレットで洗いたくなる……こうした洗い過ぎによるトラブルは、温水便座症候群と呼ばれています。洗いすぎることで皮脂膜が剥がされ、かゆみの原因となったり、強い水圧で切れ痔になることも。どうしても使わないと気が済まない人は、「1日1回、水圧はゆるく3秒以内」を守るようにしてください。

肛門そう痒症
拭きすぎは肛門周囲の皮膚炎も引き起こします。また、市販のおしり拭きやウェットティッシュなどのケア用品を使いすぎると、肛門の常在菌を殺してしまい皮膚のバリア機能が低下して湿疹やかゆみにつながります。拭き取りは3回までを心がけましょう。

切れ痔
残った便は、時間が経つと直腸から水分が吸収されて固くなります。残便は翌日に持ち越され、その硬い便が出るときに肛門が切れると切れ痔(裂肛)を発症します。

いぼ痔
残った便を肛門にずっと挟んだまま生活をすると、常に「重し」を乗せている状態のため、肛門はうっ血して腫れた状態になります。その腫れが大きくなりしぼまなくなったら、いぼ痔(痔核・脱肛)となります。痔という病気は出口に便を溜めた人がなる病気と言えるのです。

お腹のハリ、おならが臭い
出口に便が溜まっていると、便の渋滞は腸にも及ぶようになります。「お腹が張る」「ガスが溜まる」という状況に加え、「ガスが漏れて困る」「おならがクサい」「ニオイが気になって会社にも行けない」という問題にまで及ぶことも。本来、ガスには臭いがほとんどありません。おならがクサいのは、出口に溜まっている便のニオイを引き連れてガスが出るから。つまりそれは便臭なのです。さらに、便の中の臭い成分が直腸壁から吸収されると、血中に取り込まれ、汗や息も臭くなります。おならだけでなく体臭にも悩んでいる人は、出口の便秘を疑ってみてください。

うつ病、パニック障害
上記のような症状が続くことで、「気うつ」になり精神的に滅入ってしまう方も少なくありません。こういう場合、便秘を治したらうつ病やパニック障害が治ったという嘘みたいな話は実際に結構あります。
――肛門周りの炎症や痔の原因にもなっているうえ、メンタルにも悪影響を及ぼすとは。出口の便秘を放っておくわけにはいかないですね。

そうなんです。それなのに多くの便秘難民たちが、「出口の便秘を自覚できていない」→「腸活をする」→「さらに便秘が悪化する」という悪循環に陥っています。
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腸活で便秘が悪化!その原因は「便の質」に影響するから

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――なぜ腸活で便秘が悪化してしまうのでしょうか?

便秘は出口で起きているのに、腸に効くサプリや下剤、漢方薬や健康食品などを服用して、軟便・下痢便・頻便(何度も便が出ること)になり、かえって症状を悪化させてしまうのです。やわらかい便ばかり出していると、肛門は狭くなります。「どんな便が出ているか」という便の質も非常に大切なんです。

皆さんがよく飲んでいるマグネシウム系の薬やサプリは「やわらかい便を作る」もの。決して「便を出す」ためのものではありません。腸はちゃんと動いて良い便を作り、せっせと毎日出口まで運んでくれているのに、送り届けられた完成品である便を出す所でつまずいている人が肛門にトラブルを起こします。

また、腸活のために摂取しているお茶や健康食品には、腸を黒くする下剤が入っていることがあるので要注意です。アロエ、センナ、ダイオウなどはアントラキノン系下剤と呼ばれ、腸を黒くします。黒くなった腸は、自分で動かない、まるで土管のような状態に。そうなると下剤を飲まないと便が出ない体になり、便秘薬に依存するようになります。
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それだけではありません。腸が黒くなるとポリープや大腸癌の発生リスクが高まるので、アントラキノン系の便秘薬の常用は避けてください。毎日摂取していると4カ月程で、時々飲んでいるという場合でも9カ月程で腸が黒くなるので要注意です。

程度がひどくなければ下剤を中止すれば元に戻るので、早く気付いてストップすることが大切。腸を黒くしない下剤はたくさんあるので、必要な人は医療機関で相談しましょう。

しなくていい「便溜めトレーニング」やっちゃってない?

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――体に良いと思っているものが実は危険だったとは。薬に頼りすぎるのではなく、自然な排便が起きるのが大事ですよね。

はい。ちなみに、せっかく便意が近づいてきているのに「今はちょっと……」と、つい我慢してしまうことはないですか? これが慢性化している人は危険です。

――えっ。正直なところ、仕事中などでたまにありますね……。

便意があるということは「出口のすぐそこに便が来ている」という体からのサイン。それを無視すると便意は数分もすれば消え、「ちょっとくらいの便だったら平気」な肛門になっていきます。

便感知センサーが鈍ると1日分の便では反応しなくなり、2日分の便が溜まらないと便意がこない、そのうち3日分の便を溜められるようになり3日に1回の排便に……というように、雪だるま式に出口に溜められる便の量が増えていきます。

こうなってしまうと、「そこに便があるのに感じないおしり」=「鈍感便秘」になっていき、負の連鎖が続く先には「便栓塞」(いわゆる糞詰まり)という疾患に至ります。便意を我慢する「便溜めトレーニング」は絶対にしちゃいけません。
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