縦割りの地域社会が横につながれるかどうか
まだ日本での取得事例は14カ所だが、イタリアやトルコには400以上のブルーフラッグビーチがある。認証効果の研究者が発表した論文では経済効果にも触れられている。
取得後に10軒を超えるホテルが建設されて新たな雇用を生み、部屋数の増加が旅行者増をもたらしたというトルコのビーチの事例などだ。
はたして海離れが進む日本で同様の効果を生み出せるのだろうか。ホリデーシーズンに海でバカンスを過ごすヨーロッパの人たちのように、海を欲する意識を日本の人たちに抱いてもらうことは可能なのだろうか。
「可能だと思います。本質的には、幼少期に海で楽しい時間を過ごすといった体験が大人になっても海へ行く行動を生むのだと考えますが、ここで大切になるのは“海は楽しい”という思いを心に刻んでもらうことです。
国際的にクオリティを認められたブルーフラッグビーチなら、まず水質や安全面で安心感を抱いてもらえます。気兼ねなく遊んでもらえますから、そのような環境を国内に1000ほどある海水浴場の1割、100カ所に整備したい。
そしてそれらを横につなげてネットワーク化すると海のプラットフォームになります。どこにきれいで安全なビーチがあり、そこではどのような時間を過ごせるのかが可視化されると、海への大きな窓口になるのです」。
横へのつながりは海辺の地域においても重要となる。なぜなら縦割りの構図が長らくの風土だったからだ。
たとえば、海にはいろんな遊びがあるものの、サーフィン、ウインドサーフィン、カヤック、カヌー、ダイビングといったオーシャンアクティビティを総合的に提供できるショップは滅多にない。各専門ショップが連携してゲストを紹介しあう動きも見られづらい。
近隣にある同業者を商売敵と見る向きは多く、個人や商店、ジャンルを超えて手をつなぎ、地域を盛り上げるという動向は非常に少数派だ。
それでいてブルーフラッグ取得による地域振興の理想はボトムアップ型なのだと片山さんは言う。
自治体によるトップダウンではなく、海が好きな地元の人や、商店街で商いをする人たちが動き、自治体を巻き込み、地域で合意形成をしながら認証取得を目指していく。すると当事者意識が生まれ、共有でき、取得後に地域活性化のフェイズへとスムーズに移行できるためだ。
海の恵みの数々にブルーフラッグという串を刺す。そのとき、海辺の町は再び輝きを放つのである。