これにより、地域農家の持続可能な発展にも大きく寄与している。日本発の接ぎ木の技術を導入することで、農家は病虫害に強いコーヒーを安定して栽培でき、収入の向上が期待される。プロジェクトの成功は、ペルー全体のコーヒー産業にとっても希望の光となり、他の地域への技術の移転や拡大の可能性も秘めている。
南川は「サステナビリティの観点からすると、そもそも農業によって排出されるGHG(温室効果ガス)についても化学肥料の削減・効率的な施肥など深く考えて行かなければいけないと考えています。タリーズコーヒーをはじめ、コーヒービジネスに関わる全ての関係者は、持続可能なコーヒー生産を基に生産者・消費者・地球環境に幸せをもたらすという大きな舵取りが迫られる中、より大きな枠組みで協力体制を作っていきたい」と展望を語る。
「2050年問題」に立ち上がった、世界の企業
コーヒーの「2050年問題」に取り組んでいるのは、タリーズだけではない。最後に、他の企業の事例を紹介しよう。
例えば、新作ドリンクが発表される度に話題となるスターバックスでは、コーヒーの未来を守ることを目的に作られたコスタリカにある自社農園『ハシエンダアルサシア』があるのをご存知だろうか。この農園を拠点に、アグロノミスト(農学者)が気候変動やさび病に耐えられる品種の開発や、環境負荷の観点から水を減らした栽培の方法など、日々研究を重ねている。
ほかにも、キーコーヒーは、世界のコーヒーについて調査・研究を行っているワールド・コーヒー・リサーチ(World Coffee Research、以下WCR)と協業をしている。活動を行うWCRに協力し、地球温暖化への対応に取り組む。また、ネスカフェは、「ネスカフェプラン2030」を掲げ、再生農業を推進することで温室効果ガスの削減を目指し、同時にコーヒー生産者の生活向上を支援する。再生農業は、天然資源を活用することにより土壌の「健全性」と「肥沃度(土壌の質)」を高め、水資源や生物多様性の保護を目指す農業のアプローチで、環境負荷を下げながらコーヒーの収穫量を増やし、生産者の生活向上にも寄与する取り組みとなっている。
コーヒーの「2050年問題」は、一部の地域に関する問題ではない。いまや業界全体で取り組む必要のある問題であり、私たち消費者も、その背景にある要因や企業の取り組み事例を知る必要があるのだろう。