あの叱責がなければ今の自分はない
「幸運なことにアメフトの選手としては比較的恵まれて、大学では1回生のときからレギュラーとして試合に出させてもらっていました。
でも、当時の自分はすごく傲慢で、チームではなく個人のプレーを優先していたのです。そしてある日、当時の主将から「お前は信用できない」と言われて、その言葉にかなりショックを受けました。
その経験以降、チームに貢献できることを考えたり、誰かのためにということを意識するようになりました」。このときの経験は、今の仕事にもつながっているという。
「他者と喜びを分かち合うような価値や、人々が明日に向かって頑張る活力を享受できるようなものを作りたいと思い、いろいろと模索した結果、食がいちばん理想的だと感じました。
才能を持った料理人が、日本にしかない素材を使ってかけがえのない体験を提供したり、特別な形で食とお客さまを結びつけるようなものを作るという。
このような思いが、コラボレイティブ・レストランであるアティロム・トーキョーの運営にいたる発端になりました」。
食に魅せられた要素は、ほかにもあったという。
「“美味しい”の定義は人によって違うじゃないですか。風呂上がりの牛乳が美味しいという人もいれば、おふくろが作った肉じゃがが大好きという人もいて。絶対的尺度がないという状況が、すごく面白いなと感じました。
あと今後、どれだけIT技術などが進歩して世の中が変わっても、“食”は変わらないと思ったんです。ものを食べるという行為や、それを体験して人と感情を分かち合うことはずっと存在して、しかもそういう普遍性は日本だけでなく世界中で同じなわけで」。
だがここで問題が発生する。下川さんは当時、食全般はもちろん、飲食業界についてもまったくの素人。「当時はペリエ(炭酸水)も知りませんでしたから(笑)」。
自身の食に関する勉強や営業活動などが功を奏し、下川さんの手掛ける事業が徐々に知れ渡っていく。だがどんな状況でも心に刻んでおくべきことがあるという。
そのひとつが時間の大切さだった。「これは仕事に費やす時間ではありません」と、前置きをしつつ。
「信用を積み重ねていく時間ですね。新しい商品やサービスをご利用いただくためには、お客さまからの信頼が不可欠です。
飲食業界のみならずファッションでもスポーツでも、100年以上続いているブランドって、最高の品質を届けるために長い年月をかけて努力をし、その結晶を長年にわたって受け継いできた。こういった経験を積み重ねていくことが、前に進んでいくための糧になっていくと思うんです。
幸運にも弊社では今年、『ザ・リッツ・カールトン京都』さんとコラボレーションをさせていただくなど、多くの方々に声をかけていただきながら、少しずつ成長していると思います」。
今後企業として実現したいことを聞くと「時間や空間を超越することですね」ときっぱり。
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