激しく魅了されたしなやかな生き方
海人の生き様は、その身のこなしにも表れているという。
自分の背丈より大きな波が岩場で砕け散るなか、波が打ち寄せると思えば岩を上のほうへ登り、引けばまた元いた場へ戻る。海の様子に身を委ねてしなやかに動くその様子に、時に刃を向くことのある大海原とともに生き、海の恩恵を受けてきた人たちの「抗わずに、受け入れる」心のあり方を見るのだという。言葉にも表れる。
「畑仕事をしている海人さんも多いのですが、あるとき80代の方に、『海に毎日出て、そのうえ畑仕事もするなんて大変じゃないですか?』と聞いたら、ポカーンとした顔をされて、『買ってくるほうが大変やろ』って言ったんです。
『どうして畑を始めたんですか?』と聞くと、『目の前に畑があったから』って。自分の身の丈にあった暮らしを自らの力で紡いでいく、それが当たり前という姿に、生きることの原点に気付かされたような感じがしたんですよね。
正直なところ、震災を経験し、『これからは丁寧な暮らしを目指そう』としていた頃は、だいぶ肩に力が入っていたんだなと思います。
東京出身の夫婦が畑も田んぼもやって、エネルギーにあまり頼らない生活を送ろうとしていたわけですから。でも今は、身の丈にあった暮らしを送っていけばいいと、そう思っています」。
写真展で津留崎さんは、来場者にワカメなど下田産の海藻を使った料理を提供した。もちろんそれらを採ったのは写真に写る人たちであり、狙いは両者の点を結びつけること。来場者に「食材の奥にある世界を見せたい」と思ったからだった。
東京は離れたけれども、やはり自分の生業は写真家であり、これからも記録し伝えていくことが自分の役割。そう思い直せたのも、しなやかに生きる海人との触れ合いがあったから、なのである。