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ギャンブルは娯楽のひとつとして、多くの人が嗜んでいる。しかしハマりすぎるとお金がなくなり、生活に支障をきたすことも。
「自分は大丈夫」と思っていても、実はギャンブル依存症へ足を一歩踏み入れているかもしれない……。
今回は、ギャンブル依存症の経験を持つ田中紀子さんに、ギャンブル依存症について詳しく伺った。
聞いたのはこの人! 田中紀子さん●国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 研究生。祖父、父、夫がギャンブル依存症者で、自身もギャンブル依存症と買い物依存症から回復した経験を持つ。全国各地で家族相談会やギャンブル依存問題の普及啓発のための講演を行っている。2018年12月にはバチカン市国で開催された依存症問題の国際会議に出席し、我が国のギャンブル依存症対策等の現状について報告をした。 著書に「三代目ギャン妻(高文研)」「ギャンブル依存症(角川新書)」がある。
ギャンブル依存症とは? 楽しくてやっているわけではない?
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ーーギャンブル依存症とは、どのような状態ですか? ギャンブル依存症は「苦しくて、つらくて、ギャンブルはしたくない。だけど、やめられない」という状態になる病気です。
病気になると生活や、お金を使う優先順位が狂ってしまいます。例えば借金をしてまでギャンブルをしている方などは、依存している可能性が高いです。自分自身をコントロールできずに、借金を繰り返してしまっていることが考えられます。
ーーなぜ、やめられなくなってしまうのでしょうか? 原因は、神経伝達物質のドーパミンが関係しています。
まず脳の神経シナプスは、神経情報を出力する側と入力される側の間に発達した、情報伝達のための接触構造です。脳全体に張り巡らされていますが、一直線につながっているわけではなく、少し間が空いています。この空間にドーパミンが放出され、受容体で受ける仕組みになっています。
ドーパミンは人をやる気にさせたりワクワクさせたり、快感を与えてくれる物質です。ゲームやギャンブル中、アルコール摂取中などにドバッと出てきます。
一般の人たちは、ドーパミンを増やす行動をやめれば、放出量が元に戻るというサイクルを繰り返しています。
しかしギャンブル依存症になると、日常生活のドーパミン放出量では受容体が満足せず、ギャンブルの刺激を求めてしまうのです。
受容体の感受性が悪くなると気持ちが下がりやすくなり、うつ病と同じように死にたい・つらいと思うようになります。気持ちを上げようとするとギャンブルするしかないので、依存してしまうんです。
なのでギャンブル依存症になった人は、楽しくてやっているというより、やめたいけどギャンブル以外で気分が上がらないからやってしまうのです。
ギャンブル好きと依存症の境界線は、あいまいで気づきにくい
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ーーギャンブル依存症が進行するとどうなりますか? ギャンブル以外のことに興味や関心が持てなくなって、気分が沈んでしまいます。
やめなくちゃいけないって分かっているけど、どうしてもやめられない。ソワソワしてしまう状態が続きます。意志が弱いからと言われがちですが、依存症という病気によるものなので、気持ちでどうにかすることはできません。
しかし実際問題、依存症の原因を知っている人が少ないため、理解されにくいものなのです。
ーーギャンブル依存症とギャンブル好きの境界線はありますか? ハッキリとした境界線はありませんが、ヒエラルキーとしてはまず「ギャンブル愛好家」の人たちがいて、中には「問題になるギャンブラー」もいます。「ギャンブル依存症」の人は一番少ないです。
問題になるギャンブラーとは、給料を全部使う・子ども用のお金を使う・借金をしているなどが当てはまります。ただ依存症ではないので、やめることが可能です。
そのため、依存症になった人たちに対して「自分はやめることができたぞ」と説教して追い詰めてしまいます。
ーー自分で依存症だと気付くことはできますか? 自分で気づくのはなかなか難しいと思います。気づくのは周りの人ですね。仕事して給料があるのにいつもお金がないと言っていたり、人にお金を借りていたりしておかしいなと思ったら、すぐに相談に行くべきです。
またギャンブル依存症の人にお金を貸すと、繰り返し貸すことになります。お互いにメリットがないので、お金の貸し借りをしないようにしましょう。
ギャンブル依存症のチェック方法
ーーギャンブル依存症かどうかチェックする方法はありますか? 私たちは「LOST」というチェックリストを作っています。
1年以内のギャンブル経験で2つ以上当てはまったら、依存症の可能性があるというチェックができます。
ただし、セルフチェック結果はあくまで依存症の疑いがあるか判断するものです。詳しい検査などは相談機関で行ってください。
ギャンブル依存症を治すには周りのサポートが必要
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ーーギャンブル依存症を自分で治すことは難しいですか? ギャンブル依存症は自分では治せない病気です。克服するには自助グループのような、同じ悩みを抱えている人同士がサポートしあう場所に行く必要があります。
ギャンブルをやめてすぐは、ドーパミンの感受性が悪くなっているため気分がすごく下がりやすくなります。興味関心が薄れるため、生きていくのもつらいと思うでしょう。自助グループに入れば、気持ちを理解してくれる人がたくさんいるので、乗り越えられますよ。
ーー今後、ギャンブル依存症にならないための予防方法はありますか? つらい出来事に直面したときや、悲しい気持ちになったときに、ギャンブル以外のことにハマれるようにする。人と繋がったり趣味を、いくつか持っておくことも大切です。
依存症は“一つ”のことにしか依存できなくなるから、依存症となるのです。いろいろなものに適度に依存する、困ったときには人にも助けを求められるということが予防に繋がります。
気持ちが落ち込んだときに相談できる人、気軽に話せる人を見つけて、心に余裕を持たせましょう。
◇
ギャンブル依存症は、脳の神経伝達物質を受け取る部分が上手く機能しなくなることが原因。やめたくてもやめられない、ギャンブル以外に興味が湧かない人は、依存症の可能性が高い。
克服するには周りのサポートが必要不可欠なので、一人で抱え込まないようにしよう。