深夜ドラマ『錦糸町パラダイス~渋谷から一本~』では、「300年近く生きている」と主張する駄菓子屋の店主を演じたばかり。顔に刻まれたシワや無造作なヘアスタイルは生で見る本人そのものだが、妙な脱力感がファンタジーとリアルを行き来する役に説得力を与えていた。
芸人から俳優に転身した星田英利さん。今回は、先日出版されたばかりの初小説『くちをなくした蝶』の著者としてのインタビューになる。
【写真9点】「星田英利が初小説を出版“書くことで死神から逃げたかった”」の詳細を写真でチェック 話を聞いたのはこの人 星田英利●俳優。1971年、大阪府出身。「ほっしゃん。」の芸名で活躍し、05年「R-1ぐらんぷり」で優勝。 現在は吉本興業の俳優部門に所属し、数々の映画やドラマ、舞台で活躍中。9月3日、自身初となる小説『くちをなくした蝶』(角川書店)が発売された。
文章を書いたのは“死神”から逃れるため
「この小説をいつ書き始めたか……。いや、本当に記憶がないんですよ。辛いことやしんどいことが続いて人生に行き詰まっていたタイミングで。文章を書くことで、もがいてたんだと思います。死のうかなって思ったことが何度もあったんで」。
小さい頃から文才があり、仲の良いプロデューサーにも「いつか絶対に本を書いたほうがいい」と言われ続けた。小説も3カ月ほどで書き上げたが、2年をかけて推敲を重ねたのにも切実な理由があった。
「書き終えたら自分も終わってしまいそうで、1、2年の間だらだらと書き直しを繰り返してました。同時進行で別の物語も書いてたくらい。書き終えてしまったら、なんていうか、死神に食いつかれそうな感覚があったんです」。
コロナ禍前から仕事は激減「月収ゼロの月も」
実はコロナ禍以前から生活は苦しかったという星田さん。その理由についても赤裸々に語ってくれた。
「役者の仕事って撮影が終わってクランクアップしたら終わり。次の仕事が来るまで待つしかない。仕事がない期間が長く続き、経済的にかなり苦しみました。月収ゼロの月もありましたね」。
星田さんは15年前から単身で東京暮らしを続けている。家族を経済的に支えられない苦しさと、コロナ禍で家族に会えない孤独で精神的に極限だったという。
「1人だったらいいんですけど、守る家族がいるので経済的にも精神的にも追い詰められました。その閉塞感のなかでコロナ禍がきた。これは突発的に死ぬ場合もあるだろうなと、息子や娘に遺書を残す気持ちで『くちをなくした蝶』を書いたんです」。
貧困やいじめを題材にした理由
酒に溺れ、娘をネグレクトするシングルマザーと暮らす主人公のミコトは、貧困を理由にいじめられた過去を隠しながら、普通の女子高生を装う。だが、あることから家庭環境が知られることになり、陰湿ないじめが再開。小説はミコトが自死を決意する場面で幕を開ける。
貧困、ネグレクト、いじめ、自死という重いテーマを選んだのはなぜか。
「子どもを虐待するニュースが、またかっていうほど報じられるじゃないですか。自分に子どもができてから一層、そういう問題に敏感になったんです。それに、日本は若者の自死も多いですよね。
若者が死のうって思う社会を作ってるのは、やっぱり大人なんで。大人の責任として、声をあげたり何かを表現したりしなきゃいけないっていう思いはずっとありました」。
「小説を褒めてほしいわけじゃないんです。批判も含め、いろんな意見を聞きたいですね」。
主人公のミコトは、読み手が苦しくなるほど悩みを吐かず、涙も見せない。そのキャラクターは星田さん自身の性格にも重なるという。
「ミコトに関していえば共通する部分が多くて、僕も昔から悩みを相談できない人間です。彼女はいい子すぎるんです。相手の気持ちを考えて、悩みを言わない。母親にネグレクトされてるのにちょっと優しくされたら、そこに希望を抱いてしまう。でも、そういう心理はきっと僕にもある。
小説に出てくる登場人物一人ひとりを、僕自身が演じるように書きました。だから、母親にもミコトをいじめた同級生にも、すべてのキャラクターに僕の要素が入ってるんです」。
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