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2024.10.07

10代の夢が現実に。最高傑作「シボレー ベルエア」とタトゥーアーティストの運命的な出会い



昔見たアメリカ映画の主人公が乗っていたのか、はたまた子どもの頃に見た車の図鑑の1ページかーー。

車に詳しくない人だって一目見たなら「クラシックなアメ車と言えばこんな感じ!」と言わずにはいられない、どこかで見たであろう記憶を強烈に呼び起こす車、それが「シボレー ベルエア」だ。

今回は、古き佳きアメリカの時代を象徴する車に少年時代から魅せられ、夢を叶えたタトゥーアーティストと、運命に導かれるように彼のもとにやってきた車とのアツい物語。

「やっと会えたね」って言葉、実はこの出会いのためにあったのかもしれない。


彫だいが愛してやまない「シボレー ベルエア」

レジェンド級の車に勝るとも劣らないこの車のオーナーが、栃木県小山市に拠点を置く「クラシックスタジオ」代表の彫だいさん。

タトゥーアーティストとして国内外から絶大な人気を誇る傍ら、“ストカジ”をテーマにした3つのアパレルブランドでデザインも手掛けている。

インスタグラムやTikTok、YouTubeといったSNSの総フォロワー数はなんと40万人以上! 彫り師としての仕事やファションについてはもちろん、その飾らない人柄やコミカルな日常が大好評。インフルエンサーとしての顔も持つ注目の人物なのだ。
 


そんな彫だいさんが7年ほど前に手に入れたのが「1957年 シボレー ベルエア ハードトップ」。そもそもシボレーベルエアとは、1950~1975年に作られたフルサイズの乗用車で、トライシェビーと呼ばれた1955~1957年のモデルが絶大な人気を誇る。

特に1957年のモデルは最高傑作と評され、流れるようなルーフラインやリアのフィン、統一感ある室内スタイリングなど、アメ車らしいダイナミックさの中に洗練されたデザインが散りばめられた“アメリカの象徴”と言うべき存在。彫だいさんの愛車はパキッとしたターコイズブルー。青空が霞むほどの鮮やかな色につい目を奪われてしまう。
 


ベルエアとの出会いは突然に。10代の夢が現実になる日

そもそもどうして彫だいさんはベルエアを手に入れたかったのだろうか。

「小さい頃からアメリカのヴィンテージカルチャーが好きで、14歳のときに『東京ロカビリークラブ』というのに入ってツイストを踊ってたんです。当然、年上の人がほとんどで、その先輩たちがシボレーに乗っていたんです。

その影響もあって雑誌で見たベルエアがカッコよくて、『これだ!』と。今思い返すと当時雑誌で見てたのは、まさしく今乗ってる型なんですよね」。
 


出会いは突然やってきたという。

「僕、急に断捨離したくなる癖があって、当時所有してたインパラワゴンとトヨタクラシックを売りに出したんです。その直後に知り合いから、『ずっと探してるベルエアがオークションに出品されてますよ』って言われて。それで持ち主と直接交渉するために、神奈川県逗子まで行ったんです」。

ただ、すぐに交渉成立、とは行かなかったようで……。

「予算が足りなかったんですよね。そこで僕とオーナーさんでお互い妥協できる金額を同時に提示して一致したら今日決めましょうと。それで、せーの!で出したら見事一致したので売ってもらうことが出来た」。



大好きなゴールドとブルーのたまらない組み合わせ

そんな運命的な引き寄せがあって手元にやってきたベルエア。愚問だと知りながらも、お気に入りポイントを聞いてみた。

「やっぱりこのカエルみたいなかわいい顔! あとエンブレムとグリルがゴールドになってるんですよ。アクセサリーもゴールドが好きなので、ここもめちゃくちゃお気に入りポイントかな。基本的に外装は購入時から何もいじってないんですよ。雨の日も気にせず乗っているのでいい感じに擦れてきてマットなブルーになってきました」。


 
そして、リアには気になるピンストライプが描かれている。

「ティーンエイジドリーム(10代の夢)って書いてあるんです。14歳のときから欲しかったけど、この言葉を地で行くとはね。日本に来る前のアメリカのオーナーさん時代から描いてあったみたいで、これは運命だなと」。


 
車内は、車体色と同じターコイズブルーとブラックのバイカラー。シートは内張りを貼り直したくらいで日本にやってきたときのままだという。メーター周りやダッシュボードのあたりも一見すると当時のままのような雰囲気だが、ここにも彫だいさんのこだわりが垣間見える。

「ここはかなりカッコつけポイント(笑)。メーターは当時のオリジナルに見えるんですけど、デジタルメーターになってるんです。元のデザインにかなり近いやつを探し出しました。オーディオはBluetoothが繋がるし、エアコンも新しく付けたので驚くほど快適なんですよ」。
 

レストモッドで総額500万円以上!? トラブルを乗り越え、今がベストな状態と言える理由

とはいえ、そこは67年も前の車。走れなければ意味がない。問題なく乗れるようになるまでにかなりの費用がかかったのは想定内だったり、想定外だったり……。

「エンジンルーム、ほぼ新品だから綺麗でしょ? 結構オーバーヒートに悩まされて、エンジンは1回半乗せ替えてるし、ミッションも2回替えてるんです。ここだけで余裕で300万円はかかってると思います」。
と、それだけで十分新車が買える金額を叩き出す。


 
「実は、エンジンに関してはインジェクションにした後に、結果キャブレターに戻したんです。結局、コンピューターって誰でも直せる訳じゃないので、そこが直せなくなっちゃうと“めちゃめちゃ調子のいい、エンジンがかからない車”になっちゃうんですよね。相性もあると思うけど、今の状態が一番燃費がよくてちゃんと走ってくれるし、壊れても修理しやすい。トラブルが起きにくい仕組みに戻したって感じです」。


 
大がかりなレストモッドを経て、「今が一番調子がいい」と言い切れるほどの状態になったそうだ。

「もともとこの車の仕組みがどうなっているのかを理解することがすごく大切ですね。こういうときはどう対処したらいいかっていうのが分かるし。作り自体はすっごい簡単なんですよ。だから今の車より全然覚えやすいと思います。あとは維持するためにたくさんお金を稼ぐことかな(笑)」。


 
まさに“手はかかるけどとてつもなくかわいい子ども”と言うべき存在。そこまでしてこの車にこだわるの理由はというと、「直せば乗れるんで」とキッパリ。

「古い車って中身を全部新品にして、ちゃんと機能するようにしてあげれば、そこからさらに20年は乗れると思うんですよ。それを繰り返していけば、ボディがダメにならない限り一生乗れる。それと、単純にこんなにカッコいい車は他にないし、今後作られることもないと思うから。20年ごとに500万円と思えば高くないんじゃないですかね」。
 


車はただの“道具”。でも乗り込めば、スペシャルで最高なアトラクション!


10代の頃からクラシックカーへの憧れが強かった彫だいさん。初めて自分で買ったマイカーも当然、アメ車を選んだ。

「最初に買った車は1981年製のキャデラックのデビルクーペでした。すごく調子がよくて、毎日乗ってましたね。また乗ってみたいけど、最後に残す一台を選ぶならやっぱりコイツかなぁ。実は今、ちょうど100年前のT型フォードを作ってるんです。屋根がないTバケットを70年代スタイルにするつもりで。完全に遊びの車ですけどね」。

と、まさかの現在進行中の新たなクラシックカーがあることを明かしてくれた。

お気に入りのキャラクターに妻のさやかさんが車体色のスカートとリボンを手作りしてくれたそう。

お気に入りのキャラクターに妻のさやかさんが車体色のスカートとリボンを手作りしてくれたそう。


「正直、ベルエアは毎日乗るにはちょっと気合がいるんですよ。パッと乗り出す訳にもいかず、エンジンかけてしばらく温めないと乗れない。だからちょっとこそまでとかコンビニ行くときなんかはジムニーを使ってます(笑)。やっぱりベルエアは疲れててしんどいときじゃなく、自分のコンディションが整っている元気な時に乗りたいんですよね」。

ネガティブな気持ちをこの車の中には持ち込まない。そんな強い意志を感じた。

「車って僕の中でただの道具だと思っていて。でも、ただの車で通勤したって面白くないけど、この車ならめちゃめちゃスペシャルな通勤の時間になるんです。車に乗るっていう行為が特別なアトラクションになってくれるんです」。


タトゥーも車も自分のカルチャーを“再現”するもの

タトゥーアーティストとして20年以上のキャリアを持ち、不動の地位を確立してもなお、SNSを通じて精力的にファッションやライフスタイルを発信し続ける彫だいさん。彼のポジティブさと行動力が周りを巻き込み、気が付けば新しいコミュニティやカルチャーが作られていく。


 
「自分のカルチャーが再現できるものが好きなんです。あくまでメインは僕。僕のオプションとしてタトゥーがあったり、ファッションがあったり、もちろん車もそのうちのひとつだったり」。

彫だいさんは「自分がやっていて一番楽しいし、カッコいい」という現代和彫りを専門としているが、自身の体に刻まれているのは“アメリカンニュースクール”という1990年代に流行ったスタイル。時代は違えど、タトゥーもこの車も激動の時代を経て生まれ、新しい流れを作ったという共通点があるのかもしれない。
 
SNSにも度々登場する妻のさやかさん、息子のりゅうたろうさんと。

SNSにも度々登場する妻のさやかさん、息子のりゅうたろうさんと。


「ただ楽しそうと思ったことをやっているだけ。やりたいことをずっとやり続けるために健康で長生きする。そうすれば夢は定期的にずっと叶うから」。

そんな彫だいさんの尽きない夢をのせた愛車は、これからさらなる深みを増していくに違いない。



撮影=山田ミユキ 取材・文=アントレース

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