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③ キャンディス・オーウェンズ(保守系の政治評論家・活動家)


今回のアルバムではポリコレ系への発言も多く、ほかのラッパーがあまりやらない「ラッパー以外をディスる」行為もスリムならでは。このキャンディス・オーウェンズ氏はアメリカでも結構珍しく、黒人系の女性ながらも、かなり保守系の政治評論家であり、毒舌ではっきりと自身の主張を述べることで有名になった人です。

簡単に説明すると「黒人なのに黒人にとって不利になりそうな発言や行動を取ってしまう人」というイメージがついている女性です。世界的なHIPHOPアーティストであるカニエ・ウエストと一緒に「White Lives Matter(白人の命も大事である)」と書かれたTシャツをパリの大きなファッションイベントで着用して論争を生んだこともありました。

白人であるスリムが今回のアルバムで、そんなキャンディスに対して「自分が黒人であることを忘れている」などと問題発言を歌っていますが、こうした面でも、上記で述べたキャンセルカルチャーに喧嘩を売ってしまっているわけなのです。

④ クリストファー・リーヴ(俳優)



最後は最も酷いディスりを紹介します。クリストファー・リーヴは1978年に公開された『スーパーマン』の主人公を演じたことで有名な俳優です。不運なことに1995年、馬術の大会に出場した際に落馬し、首から下が不随になってしまいました。

彼はその事故以来、亡くなるまでずっと車椅子生活をしていましたが、スリムはそんな悲劇を味わった人ですらディスってしまう、タブーも何も関係ないぐらいぶっ飛んでいるラッパーなのです。

しかも、曲全体でリーヴのことをディスっているタイトル、「Brand New Dance(最新のダンス)」では、明らかに踊れなくなったリーヴを馬鹿にしてますし、内容も結構酷いものがあります。

さらに興味深いエピソードとして、この曲は実は2004年にリリースしたアルバムに収録しようとしていましたが、アルバムがリリースされる直前にリーヴが亡くなってしまったので、その曲だけを取り下げたのです。その曲を20年経った今引っ張り出してきてリリースしたという経緯があるのです。



さまざまな人をディスるだけでなく、その内容もかなり攻めていますが、アメリカではなぜか「エミネムだから許される」という認識も存在します。もちろん許容してない人も多く、スリム・シェイディのリリックの内容は常に賛否両論ですが、事実このアルバムは全米アルバム・チャートで1位を獲得しています。

このアルバムは順序通りに聴いてエミネムがスリムに勝つパターンと、順序を逆に聴いてスリムがエミネムに勝つパターン、どちらがしっくりくるかによって聴き手の賛否も分かれると思います。

個人的な意見としては、エミネムの歪んだダークなユーモアは酷いものがありますが、アルバムのコンセプトや仕掛けには、天才と認めるしかない凄さを兼ね備えている恐ろしい存在だと思います。

あなたはスリムとエミネム、どちらに勝って欲しいでしょうか? 是非ともアルバムをどちらの順序でも聴いてみてご判断ください。

ショットガンダンディ=文 池田裕美=編集

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