真の勇者はクーペで駆ける
クーペという言葉は、“切る”という意味のフランス語が語源。で、何を切るのかというと、馬車の時代に後部座席を切ったことに由来する。
後ろの座席を切り離せば、(彼女と)ふたりっきりになれるし、軽量コンパクトになるからガンガン走る。往時のヨーロッパのやんごとなき人々は、パーソナルな空間とパワフルな走りを贅沢だと考えたのだ。
車内が狭いことは不便ではなく、悦楽だった。
でも、男がピカピカのキザでいられた時代も今は昔。空間が広いほうが人も荷物もたくさん載せられるじゃん、どうせだったら背も高くしたほうが便利だよ、というのが今の流れで、こうしてミニバンとSUVの時代になった。
考えてみればそれも当然で、効率を考えればそっちが正解だ。
しかしですね。車内が狭いほうが彼女との距離が縮まるんじゃないかとか、バンバン飛ばすとキモチいいとか、流線形のほうがカッコいいと考えるような“中2マインド”の持ち主が一定数いるほうが、世の中は明るくなるのではないか。
クーペとは、効率より官能を重視するスタイルなのだ。
というわけで、街でこの車を見かけたら、両手を合わせてしまうだろう。この時代に高い金を払ってクーペに乗るあなたは、真の勇者だと。
| モータージャーナリスト サトータケシ フリーランスのライター/エディター。ChatGPT搭載の車に試乗したところ、パンケーキの作り方を懇切丁寧に教えてもらい感激したらしい。「でも肝心の目的地設定が苦手だったのが、かわいらしかった」。 |
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