パンデミック中に、「ニューヨーク・タイムズ」紙の1面をキャンパスとして空を描くシリーズ
「Sunrise From a Small Window」を始めた澁谷は、今回のインスタレーションが形になるまでのことをこう振り返った。
「僕はニューヨークのアパートメントに閉じこもり、空想上で旅をしながら、歌川広重の『東海道五十三次之内』のことを思い浮かべていました。そこで、空想中の旅中に宿泊する宿の窓から見る景色を1日ずつインスタグラムに投稿していったのが今作の始まりでした。
人が旅を再開できるようになった2024年、カルティエから50周年記念企画の話をいただきました。日本五十空景というテーマの下、日本中を回り、各地の新聞にその土地の風景を描くというコンセプトが実現しました」
澁谷翔『日本五十空景』2024年 (c) Sho Shibuya, Fifty Sky Views of Japan
澁谷の旅の始まりは、『東海道五十三次之内』の起点となった日本橋だった。歌川が歩んだ軌跡を追体験したいと望んだが、200年が経った今では彼が見た風景は残されていない。しかしひとつだけ、現代にも通じるものを見つけたという。
「僕が見た空の景色だけは、江戸時代の人々、そして歌川が見たものと共通するものがあると感じました。浮世絵とは、戦国時代が終わり、 人々が浮かれている『浮世を描いた絵』です。パンデミックが終わり、人々が旅を再開した現代人が見る空と似ているのではないかと感じました。
さらに新聞には、東京新聞なら東京、日本海新聞なら日本海、とそれぞれの土地を表す題字があります。題字は浮世絵にも記されているもの。今回の作品は、現代美術の文脈を通した現代版の浮世絵だと自負しています」
最後にケルマシュテールから、「メゾンとしてのカルティエと日本」、「カルティエ現代美術財団と日本」というふたつのテーマが並行する本展覧会で、それぞれの絆を表現するために最も重視したことが語られた。
(c)Cartier
「ふたつのパラレルストーリーの共通点は、現在も進行中であるということです。これまでも、これからも続く対話は、現代アーティストにとって新しいものを制作するインスピレーションやチャンス、自信にもなっていると思います。
また、今回の展覧会を含め、アーティストたちと協力をしながらメゾンやアートが社会と繋がる方法を模索してきました。『結 MUSUBI』展から、今後どのようなストーリーが生まれるかということにも注目して欲しいです」