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自分はできるという思いをどう育むか

1年生の頃から知っている今の3・4年生は、自分たちでどんどん世界を広げている」と、3・4年生のグループリーダー・原田友美先生は感じている。演劇をやりたいという声があり、子どもたちは好きな漫画をアレンジした台本の作成から衣装の製作まで全てを分担し、最後は全校生徒の前で披露した。その過程で、原作者にも連絡を取り、動画も見てもらったという。自分たちで全て行った経験を通じて「充実感を味わうことができ、やればできるという自信にもつながった」

「グループリーダーは、コーチングをしたり一緒に考えたりしていく人。その子がより良く生きていくためのお手伝いをしていくような立ち位置」だという。「勉強がどうしても進まなかったら、一緒に解決策を考える」。最初はできない子どもでも、話し合いながら時間をかけることでできるようになっていく。

3-4年生夕焼けクラスグループリーダー 原田友美先生

3-4年生夕焼けクラスグループリーダー 原田友美先生


休みがちだった児童が、最近では「今日も漢字がうまくいった」と感想を書くようになった。「先週、『勉強がたのしかった。はるさんありがとう、いつも』と書いてあり感動した」と“はるさん”こと原田先生は言う。

「やってないことを怒ったり、なんでやってないの?と言ってしまうとやる気なんか出ないので待つようにしている。人生の2、3ヶ月間何もやらなくても、自信をなくすよりいい。その子が本当にやりたいと思ったら学習は追いつく。自信とやる気と、自分はできるんだという思いをどう育むかが大切」
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以前は公立小学校の教員だった原田先生。「子どもたちのやる気や自尊感情を大切にすれば学校はもっと楽しい場所になるはずなのに、誰かよりうまくできたら安心し、できないと不安になるような場所に疑問があった」

「ここでは、やりたいことを実現できるチャンスがたくさんあるから、子どもたちがいろんなことをやりたいと言います。言った方が楽しめる。それに向かって自分たちでガンガン進めていく力がすごくある。どんな子どもでもそういう環境だったら、やりたいしできるのに、それが用意されない環境に長くいるとやれなくなってしまう」

大日向小学校では、昨年まで1、2、3年生と4、5、6年生が同じクラスにいる三学年制だった。現在は二学年制を導入しており、異年齢での学習活動を重視している。それにより「人はみんな違うのが当たり前」だということを早いうちから受け入れられるようになるという。「一学年しかいないというのは考えられない」と原田先生は言う。

「三学年制は一番下でみんなからサポートされ、真ん中で状況をよく知って引き継ぎ、一番上になり1年生もいる経験が意図されていました。普段の生活は面白かったけれど、学習面では難しかった。今はすごくスムーズにいっています。まだこの学校は5年目。これからも試行錯誤しながら一つ一つ決めていかないといけないですね」




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娘は圧倒的に楽しそうです

4年生の寧々ちゃん(10)の両親、若松義秀さんと真紀さんも賛同する。

「今は二学年制だけれど、三学年制を経験できたのは大きいです。1年生のときにお姉ちゃんがいて、好きなお姉ちゃんができると楽しくなって。寧々は『自分が3年生になるとちょっと緊張する』って。『お姉ちゃんしなきゃ』っていう意識が少なからずあるんですよね。ちゃんとしなきゃって。その異学年制というのはすごくいいことだなっていうのと、スペシャルニーズがある子、特性の強い子も、みんな一緒に遊んでいます。全然分け隔てないので、最初から混ぜるべきだというのが見ていてすごくよくわかります」と義秀さんは言う。

「娘は圧倒的に楽しそうです。わかりやすいのは、長い休みの終わりぐらいになると、『来週から学校始まる、あと3日で学校始まる』ってカウントし始めるんですよ」と義秀さん。「『やっと長い休みが終わるー!』って」と真紀さんも言う。「毎日本当に楽しそうです」

学校での出来事を事細かに報告してくれることにも驚いているという。
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「だいたいお昼ご飯から入るんです」と真紀さんは笑顔を見せる。「ほんとにここは給食が美味しいので毎日ご飯が楽しみみたいで、まず今日はこういうお昼だったの後に、学校でこういうことがあってねって話をする。イエナプラン教育では対話をすごく大事にしています。子どもたちで話し合う場も多いし、大人とも対等に話をする機会が多い。だからか子どもがちゃんと話し合う姿勢を持ってくれます。

子どもたちで喧嘩が起きて意見が分かれると、みんなで『じゃあ一回話し合おう』と。なんで揉めたのかをそれぞれが話し合って『これは悪い、ここはいいんじゃないか、じゃあどうしたらいいだろう』って。意見が違う者同士がきちんと向き合って、話し合いを持とうとしている」

寧々ちゃんと両親、若松義英さん・真紀さん

寧々ちゃんと両親、若松義英さん・真紀さん


大日向小学校に娘を通わせるため、伊豆から教育移住した若松さん一家。オランダの教育に共感し、移住を検討したことも。しかし「イエナプランスクールが日本にできることを知って、長野に行こうと迷いなく移住が決まった」と真紀さんは言う。

「ここでは子どものことを考えているというのがすごく感じられる。上から大人たちがトップダウンで決めた世界を子どもたちに過ごしてもらうのではなく、子ども主体だけれども、大人たちが周りでサポートするという教育方針に惹かれた」

保護者もまた学校の活動に積極的に参加し、共に子どもたちの成長をサポートすることが「大きな柱」になっていると義秀さんは言う。保護者が得意分野を活かしてプロジェクトを立ち上げるというが、「僕は内装の設計とかして物を作るのが好きなので、校庭魅力化プロジェクトと言って、中学校を建てる前に元々あった幼稚園の廃材を使って、何人かの保護者と遊具を作っています」

「小さいグループでプロジェクトが動いて、そこで交流があります。町の方でも、移住してきた親御さんがいろんなお店を始め、そこでイベントを開催したりしてみんなが集まります。そうした自然な形でお互いに関係性を築いています。年数をかけてお互いの関係が発展し、ゆっくりとコミュニティができていると感じます」と真紀さん。「学校が大切にしていることの一つが『共につくる』こと。親の方も積極的に関わらないと一緒には作れないと思っています」




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