人とはかけがえのない存在
2019年に開校したばかりの学校法人茂来学園大日向小学校では、「誰もが、豊かに、そして幸せに生きることのできる世界をつくる」ことを建学の精神として掲げ、「学校はその理想の共同体になること」を目指している。ドイツで生まれオランダで広がったその教育法のユニークな点は「このやり方をしましょう」の前にしっかりとした理念があることだと久保礼子校長は言う。
「それはとても普遍的なもの。人とはかけがえのない存在。社会とは違いを認め合うところ。そして学校とは、それのできる人たちを育てる場所である」との理念が込められている。
開校当時一年生だった児童は現在5年生になった。「発達がデコボコだった子たちが、お互いのデコボコを理解し、その中で集団を作っている」と久保校長は言う。「居心地の良さ、イエナプランが目指すのはそこの部分。デコボコあっていいよ。あなたはそこに存在していいんだよっていう、その関係性が大切。そこから人は伸びていく」
日本イエナプラン教育協会を立ち上げた第一人者でもある久保校長は、福岡県で中学校の教員を33年間務めた。教員当時、「先生という人が子どもという人に何かを教えることに疑問を持ってしまった」と話す。
「いい授業を作らなければと一番勉強して頑張っていたのは自分。子どもたちが頑張るべきところを私が取ってお客さんにしてしまっていた」。2年間休職し、海外の学校を訪れながらイエナプラン教育について学んだ。
「その中で見たものは日本とは根本的に違い、子ども自身が学ぶことを体現していた。私が色々調べて、『こうなのよ、わかった?』というやり方ではなく、『一緒に考えよう』という授業の構成にするアイデアがたくさんあった」
大日向小学校では異年齢での学習活動を行い、1・2年生、3・4年生、5・6年生が同じクラスで学んでいる。教員全員が「グループリーダー」としての役割を果たす。全ての子どもを全職員でサポートするという考え方に基づき、常に複数の教職員が出入りする。教師と生徒同士で「フラットな関係性を築きたい」から、「先生」ではなく、それぞれが呼んでほしい名前で呼ばれるそうだ。「大人が全てわかっていて、子どもはそれに従うだけの関係性にはしたくない」
校長 久保礼子先生
「このグローバル化の中で、学習指導要領の内容も主体性やクリエイティビティ、多様性を認め、協働するスキルなど非認知能力へのシフトが進み、イエナプランも多くの共感を呼んでいます。私たちにはこれをどう確かなものにするかという責任がある。一人一人を本当に大事にするところ。みんな違っていていいということ。その理念は間違いないと確信しているから、これがブームに終わらずに確かな人を成長させる一つの方法となっていけばいい」と久保校長は続ける。
「一条校として学習指導要領に則った学習を進めている。やり方やアプローチが違うだけで特殊な勉強をしているわけではない。重要なのは、私たちがその内容をどれだけ深く理解し、どれだけ深く体現させることができるか。子どもたちと共に考え、どのような力を伸ばすことができるかをリーダーたちが読み取り、それに基づいて授業を構築しています。教員にも主体性が求められ、自由と責任、クリエイティビティ、批判的思考も求められます。子どもに求めているものが大人にも同じように求められるのです」
午前中の「ブロックアワー」では、グループリーダーが一週間の課題を設定し、計算や漢字などの基礎的な学習を行う。できることに個人差のある課題に対し、子どもたちは各自で時間割を組み、自分のやり方で進める。黒板に向かって座る必要もなければ、廊下でも、寝そべってでも、学習スタイルは自由。一日一つ進めると5日で終わるが、月曜日に全て終わらせて残りの時間はプログラミングなど独自の課題に取り組む児童もいる。
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