「あんたバカだよ」と言われても続ける“母の味”
「最初の頃は『ネパール料理なんて誰も知らない、タンドリーチキンやナンを出さないなんて、あんたバカだよ』って言われたし、今でも『バターチキンカレーとナンがないと潰れるよ』とか、ナンがないならって帰っちゃう人もいる。でも商売的には厳しくても、やっぱり日本の人に私の故郷の味を食べてもらいたいからね」。
そんなプルジャさんが作るネパール料理は、お母さんから受け継いだ、やさしい味。
「ネパール料理のなかには辛いものもあるけれど、うちのお母さんのルールは、辛いものは料理に入れない。
お母さんからは、『料理それぞれにちゃんと味があるのに、辛い調味料を使うと、口のなかがパニックになって、味が全然わからなくなってしまうでしょ。最初から辛くするのは、味を誤魔化すことになるんじゃないの』って言われてきたから」。
では、プルジャさんの話すネパール料理とはどんなものなのか。
「ネパールには冷蔵庫や冷凍庫がない家も多いから、発酵させたり、干して保存したりすることが多いね。例えば、これはグンルックといって、大根と大根の葉を発酵させたもの。少し酸っぱい匂いがして、スープなどに使う。あとはスパイスも良く料理に使うね」。
プルジャさんの地元は、ヒマラヤ山脈に連なるダウラギリの近く。ダウラギリといえば、登山家に有名な土地で、標高も高く、厳しい環境。それだけに貴重な食糧の保存方法が受け継がれてきたというわけだ。
ヒマラヤで自然の恩恵を受けてきたプルジャさんは、使う食材にもこだわっている。
「日本は1年中、同じ野菜が売っているよね。でも無理やり作ったものは、体に良くないと私は思っている。自分の健康を大切に考えるなら、お客さんの健康も同じように考えるべきじゃないですか。だからオーガニックで、その季節にできるものをお客さんには出すようにしているの」。
実際、旬の野菜は栄養素が豊富だとも言われている。そこでプルジャさんは茨城県に畑を借りて、お店で出す野菜を作っている。
取材中に届いた畑の新鮮な食材
「今、食材の値段は上がり下がりが激しいでしょ? でも自分で作れば値動きしないから、料理の価格を上げなくてもいい。それに季節によって違う料理を出せば、みんなにも楽しんでもらえるから」。
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