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パラオの環境税は何に使われるのか?

東海大学観光学部准教授 黒崎岳大さん●1974年、群馬県出身。 在マーシャル日本国大使館専門調査員、 外務省アジア大洋州局事務官等を歴任後、2022年から現職。太平洋島嶼国の政治・経済学、文化人類学を専門領域とする。 またオセアニア地域の事例をもとに 環境・経済・社会文化に配慮した 「持続可能な観光」に関する研究を行う。 昨年発刊された『地図でスッと頭に入る オーストラリアと太平洋の島々』を監修。

東海大学観光学部准教授 黒崎岳大さん●1974年、群馬県出身。 在マーシャル日本国大使館専門調査員、 外務省アジア大洋州局事務官等を歴任後、2022年から現職。太平洋島嶼国の政治・経済学、文化人類学を専門領域とする。 またオセアニア地域の事例をもとに 環境・経済・社会文化に配慮した 「持続可能な観光」に関する研究を行う。 昨年発刊された『地図でスッと頭に入る オーストラリアと太平洋の島々』を監修。


「パラオ観光を象徴するスポットにジェリーフィッシュレイクがあります。そこは海水と淡水が混ざる汽水湖で、生息するクラゲは無毒化していることから、旅行者たちはシュノーケリングなどをしながら一緒に泳ぐことができるのです。

世界を見渡しても、ここでしか得られない貴重で神秘的な経験ができる場所ですから、パラオの人たちも自国のシンボルだと大切にしていました。

ところが、あるときにクラゲが死滅してしまったんです。主な要因は一気に観光客が増えたことによる環境負荷だといわれています。

観光で食べていきたい国として、旅行者の増加はうれしいもの。しかしオーバーツーリズムによって自国の象徴を失った経験は衝撃的で、以降、島民にはマインドセットが起きました」。

太平洋上の国々を研究してきた東海大学観光学部の黒崎岳大准教授による言葉だ。准教授は「のちに環境保護政策が促進されていく一因となった」と説明を続ける。

具体的には、まずパラオ誓約が導入され、入国者のパスポートに押されるスタンプは、パラオの自然を保護する誓いと署名欄を含むものとなった。

旅行者は入国に際して署名を求められるが、それはゴミを捨てない、サンゴ礁を傷つけないといった環境に対して負担にならない行動を義務付けるもの。誓いを破った者には最大100万ドルの罰金が科されることになる。

旅行者にとっては滞在中に不便を強いられる側面もあるが、それでもパラオ誓約の導入に踏み切った背景には環境の悪化は国家の存亡に関わるという判断がある。環境税を導入したのも同様の理由からだ。

「実際のところ、クラゲの幼虫は深い湖底で生きていて、島民が誇りを抱いていたジェリーフィッシュレイクそのものは復活しました。しかし観光と環境が両立されたツーリズムの実現を本腰を入れて目指すべきだという風潮が生まれ、パラオ誓約や環境税が導入されることになったのです。

環境税導入以前も、出国時は出国税20ドル、グリーン税30ドルを支払う必要がありました。このときの30ドルは、10ドルが漁業を保護する基金、12.5ドルが州政府、残りが国庫に充てられています。

サンゴや海洋生物の研究を目的とする『パラオ国際サンゴ礁センター』の設立をはじめとした自然保護を目的とする施策や、観光と並ぶ主産業である漁業をサポートするなど、地元のコミュニティに還元されていたのです。

100ドルの環境税導入後は程なくしてコロナ禍となり観光はストップ。本格的な施策推進はこれからとなりますが、その用途は出国税とグリーン税の使い道がベースになっていると考えられます」。

入国者に誓いと税を課すことで「パラオは環境と観光に高い関心を抱く国なのだ」という姿勢を訪れる人たちや諸外国に周知したい。それが最も大きな導入目的であると、レメンゲサウ前大統領は語っていたと黒崎准教授は言う。

今でこそ自然を観光資源とするデスティネーションの多くが持続可能性をツーリズムのコンセプトに掲げるようになった。だがそれよりも前から自然環境と経済活動とのバランスを図ることに自覚的だったパラオは、文字どおり、時代に先駆けた環境立国なのだといっていい。


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