ビジネスパーソン向けのセミナーも要注意
実は、僕は自己啓発セミナーに潜入取材をしたことがある。企業向けのセミナーで、参加者の多くは会社から言われて来た新入社員だった。
セミナー費用は前期2泊3日、後期2泊3日合わせて50万円ほど。この金額自体が詐欺めいているが、これでも自己啓発セミナーの中では安い方だった。この手のセミナーは初期段階は無料か格安で行われ、入り口のハードルを低くしていることもある。
自己啓発セミナーは基本的に勧誘で広がっていく。勧誘をするのはセミナー受講者で、マルチビジネスなどと同じ手法だ。だから、潜入するのにとても苦労した。自ら応募して来る人などいないから、とても怪しまれるのだ。それでも何とか潜入したのだが、セミナーの途中で、吊し上げを喰らった。
40人くらいが集まる部屋の中で、1人立たされ、講師から「貴様、怪しいんだよ! スパイか!」と怒鳴られた。いろいろな団体に潜入してきたが、これまでで最大のピンチだった。
そのときは、オロオロして泣いたら(自然に涙が出た)許してもらえた。“バカのふり”は効く。追い込まれたときは、賢ぶらずバカになった方が良い。
「で、結局、自己啓発セミナーとは何?」という話だが、簡単に言えば「しつけ」だ。セミナーでは「気付き」という言葉を使うことが多いが、僕に言わせれば動物に対する「しつけ」に近い。
ゲームをしながらマインドを変容させていく
自己啓発セミナーの会場は窓がひとつもなく、時計もない閉鎖空間で行われる。やることといえば、単純なゲームなのだ。
例えば、以下のようなものだ。
「2チームに分けて、投票ゲームで相手に勝とう」。
「沈没した船内と仮定して、限られた数しかない救命ボートに誰が乗るのかを決めよう」。
ゆるいゲームだな、と思うだろうが、これを究極的に真剣に厳しくやる。細かいルールは端折るが、投票ゲームは、一見、「相手チームを陥れて引き分けに持ち込む」のが最善手に思えるゲームだ。どちらのチームも普通はそのやり方を選ぶ。
結果が出たあとに講師が、「あなたたちは、いつからそんないやらしい人間になったんだ! さっきまでは仲間だったのに敵味方に別れた途端に陥れるのか! なんて情けない人間だったんだ!」と延々と説教をする。
そのとき、会場の明かりが落とされる。暗闇のなか、中島みゆきの「五才の頃」が流れる。
♫〜思い出してごらん 五才の頃を 涙流していた 五才の頃を〜
音楽に合わせて講師が言う。
「あなたたちが子供の頃、邪心はなかったはずです。思い出してください。母親のこと、父親のこと」。
会場からは、グズグズの鼻をすする音や「お母さん……」と叫ぶ声が聞こえてくる。
怖いのは、潜入していた僕も泣いていた、ということだ。ウソみたいだが、本当の話だ。単純なゲームでも、デスゲームレベルに追い込んで真剣にやると、阿鼻叫喚の号泣地獄になるのだ。
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