潜入でも気付けば“出来上がった”状態に
もちろん逆らう人もいる。
僕が参加したセミナーは平均年齢が20代後半の若い人が中心のセミナーだった。多くは、美容院や飲食店で働く店員が、研修として参加していた。中小企業は自分で教育する機関を持たないから、自己啓発セミナーに通わせる……らしい。
セミナーには50歳くらいのおじさんが参加していた。年齢が高い分、偉そうにしていた。その人は誰かが説教されるときは、講師側につき、「そうだ、お前は本当にダメだ」などと言う。
常に「俺はお前らと違う、講師レベルの人間だ」という態度をしている。なぜか講師も注意せず、皆イライラが溜まっていった。しかし、また威張った態度をとったとき、講師の雷が落ちた。
「あんた何様だ? そうやって若い子に威張り散らして! そんな態度だから会社でも嫌われているんだ! なぜ、あんたがこのセミナーに参加させられているのか気付けないのか!」。
講師は、その50歳の男性を完全に掌握していた。彼がいかに会社で嫌われているか、煙たい存在なのかを、つらつらとぶつけていく。とても細かいデータを持っていることに強い恐ろしさを感じた。男性は子供のように泣きじゃくった。
さっきまで自慢げで嫌味だった男が泣くのはおかしくて、みんなニヤニヤとその様子を見ていた。
「お前たちは鬼畜か! 人が泣いている様子を見て楽しいのか! いつからそんな人間になったんだ!」と、笑っていた人間が、今度は泣かされるまで説教された。
中島みゆきや、さだまさしの音楽がかかり、みんなおいおいと泣く。そんなことが延々と続いてく。
「皆が嫌がることは率先してやる」
「手は誰よりも先にあげる」
「苦しんでいる人がいたら援助(背中に手を当てて応援する)」
そうしないと、罰を与えられるのだから、みんな従う。つまり“しつけ”だ。とにかく、会期中延々としつけが続く。もちろん一つひとつは悪いことではないのだが、どうにも気持ちが悪い。終わった頃には、すっかり“出来上がった”状態になる。ポジティブマンだ。
潜入で入っている僕ですらも、しばらくは目がギラギラと輝き、声が大きく、仕事で会った人から、「村田さん、どうしたんですか?」と恐れられた。
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