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疲労はマスキングできてしまう

私たちが疲労感を無視できるもう1つの要因は、疲労感を一時的に「マスキング」できてしまうことです。

マスキングとは上から覆い隠すことをいいます。使命感や仕事のやりがい、褒賞への期待、あるいは「ここでがんばらなければみんなに迷惑をかけてしまう」という責任感などによって、疲労感を覆い隠すことができるのです。

ものすごく疲れているときでも、「今度の大会で一等賞をとれば、欲しいものを何でもプレゼントするよ」といわれたらどうでしょう。賞品に釣られて疲れを感じないことが実際にあると思います。

疲労感を一時的に忘れることができるのは、脳の発達した人間がもつ、すばらしい能力ではあります。一時的にがんばらなければいけないとき、どうしても責任を果たさなければいけないとき、この能力があることによって私たちは急場をしのぐことができます。

問題は疲労感のマスキングを恒常的に繰り返してしまうことです。

自分が疲れていることを認めず、十分な休養をとらずに活動を続けていると、今度は少し休んだくらいでは疲れが回復しなくなります。疲労の蓄積の始まりです。

こうなると疲労が回復するまで、予想以上に時間がかかります。あるいは本当に病気になってしまうこともあります。

コーヒーで元気が出るメカニズム

疲労感をマスキングするのは、責任感ややりがいなどの精神的な要素だけではありません。コーヒーやエナジードリンクに含まれるカフェインも、疲労感をマスキングします。

冒頭で、傷ついた細胞を修復するエネルギーであるATPについてお話ししました。

ちょっと専門的にいうと、ATPはDNAやRNAなど核酸の構成成分であるヌクレオチドの一つです。人間は食べたものを体内でATPというエネルギーに換えて、それを使って動いているのです。いわば、人間の体を動かすガソリンです。

私たちが活動によってATPをどんどん使うと、ATPがアデノシンに分解され、燃焼します。

私たちの体には、アデノシンに対応する「受容体」という受け口のようなものがあって、アデノシンの燃焼が終わると、灰のようになったアデノシンの燃えかすは、この受容体にスポッと入ります。

アデノシンの燃えかすがはまった状態では、覚醒作用のあるヒスタミンの放出が抑制されるので、「眠い」という感覚が生じます。

ところがカフェインは、アデノシンの燃えかすと化学構造が似ているので、この受け口にぴったりと入ってしまいます。アデノシンの燃えかすが入る前に、カフェインが受容体に入ってフタをしてしまうのです。

同じようにスポッとはまった状態でも、カフェインにはヒスタミンの放出抑制機能はありません。つまりヒスタミンが放出されたままになるので、「眠い」という信号が出ません。

こうなると、本当は疲れているのに、疲れや眠気を感じることができなくなります。これが、カフェインが疲労感を抑制するしくみです。ですからコーヒーを飲むと眠気が覚めるのです。

疲れたときはエナジードリンクを飲むという方もいるかもしれません。エナジードリンクとか栄養ドリンクといわれる飲料は「〇〇〇という成分が△ミリグラムも入っている!」などとうたっていますが、主成分は糖分、そしてカフェインです。ですから、コーヒーと同じしくみで、一時的に疲労を忘れられるのです。


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