減少していく日本製の衣服を絶やさないために
〈SAGYO〉では、伊藤さんが学生時代から目にしていた民俗資料をもとに、現代の生活にも合うようにデザインを起こし、作務衣や半天、もんぺなどの野良着を実際に着て修正や調整を重ねながら制作します。ものづくりで大切にしているのは、伝統的な技術と現代性、そのバランスだと伊藤さん。
「資料通りこのまま素直に作ってしまっては、やはり現代の感覚とは乖離してしまう。例えば作務衣で2回紐を結ばせるパターンがあったとしたら、それは現代の生活では受け入れにくい。だから、生活実感から得られる利便性や合理性を追求しながらも、和服のかたちを損なわないようにしています。
それから、昔の野良着は家庭で作られていたので直線断ちのパターンが多いのですが、現代の縫製技術では必ずしもそれが良いとは限らない。むしろ曲線裁ちにした方が縫製の手間が省けたり、安価に作れたりする場合もあるんです。そうしたバランスを鑑みながら、持続的な和服のあり方を探っています」
伊藤さんが学生時代から参考にしているという資料。全国の野良着について書かれている
縫製をお願いしているのは、国内の工場。作り手に直接会いに行ける距離だからこそ、〈SAGYO〉のものづくりが行えるのだと言います。
「一つの衣服を作るにしても、Aの方法ではコスト的に難しいけどBの方法に変えたら同じものが作れるというアイデアが、現地で作り手と話した方が出てきやすいんです。最近では海外の縫製工場の技術も向上していて、日本の技術に勝るとも劣らないかもしれません。海外の工場にお願いすることもできるでしょうけど、和服を起点にものづくりを行っているメーカーとして文化性を追求しようと思うと、やはり無理があると思います。ちょっとしたことかもしれませんが。
そして昨年ついに、衣服の国産品が占める割合は1.5%となりました。つまり、国内に出回っている衣服100着のうち、日本製は1〜2着しかないということです。このままではそれこそメイドインジャパンの衣服が絶滅してしまう。そういう危機感にも直面しているし、そもそも国内製造の野良着で農家さんを応援したいというのが私たちのテーマ。だから日本での製造は前提ですね」
〈SAGYO〉が作る野良着はトレンドに大きく左右されることもなければ、季節性も問わない。縫製工場の繁忙期とも重ならないため、持続可能なものづくりが叶えられるそう。
「一般的なファッションアパレルと違い、私たちは季節を問わない野良着を作っています。春夏・秋冬といったコレクションもないので、縫製工場の閑散期に依頼でき、ローコストでものづくりを行える。さらには見切り反という工場に眠る生地を使っているので、適正価格でなんとか商品を届けられるんです」
10年ほど前に試作品として制作したもんぺ。作業時にまくりあげやすいよう、裾の生地にニット素材を採用している。軽衫(かるさん)袴という18世紀の仕事着が原型となっているそう
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