当記事は「FUTURE IS NOW」の提供記事です。元記事はこちら。 近年衰退傾向にあるとされているメイドインジャパンプロダクトの魅力をたずね、それを継ぐ人の価値観を探る連載企画「メイドインジャパンを継ぐ人」。
今回ご登場いただくのは、作業服メーカー〈SAGYO〉のディレクター・伊藤洋志さん。民俗資料をもとに現代における日本の野良着を研究・開発しています。
なぜ今、和服をアップデートし再定義する必要があるのでしょうか。そして文化や技術を継承する意義とは?
きっかけは、「和服を日常着にしたい」という思い
「風景をつくる野良着」をテーマに、作務衣や半天、もんぺといった現代版の野良着を届ける〈SAGYO〉。文筆家・起業家の伊藤洋志さん、デザイナーの岩崎恵子さん、エンジニアの長山武史さんの3人が2015年にスタートした、インディペンデントな作業服メーカーです。始まりのきっかけは、2000年代初頭。伊藤さんが京都で過ごした学生時代まで遡ります。
「今でこそスーツを着て仕事をする人は少なくなりましたが、当時、日本の風土や気候に合わない服を着させられているという問題意識のようなものがありました。そもそもスーツは寒冷地で発祥したものなので。
それで和服を日常着にしようと、着物で授業を受けたり、学生同士で新しい着物を開発・販売するサークルを立ち上げたりもして。卒業後はベンチャー企業に勤めたり、ライターや個人事業を作る活動をしたりしていましたが、いつかまた和服にまつわる仕事をできたらと考えていました」
3人の人生が交差し始めたのは、2012年。伊藤さんが複数の仕事で生計を立てることを書いた著書『ナリワイをつくる』(東京書籍)の行商イベントをするべく、全国を回っている時に出会ったのがデザイナーの岩崎さんでした。岩崎さんは地下足袋や和服の制作に携わっていた経験を持つことから、伊藤さんが描いていた日常着としての和服のあり方に共鳴。〈SAGYO〉の構想が始まります。
「和服の日常着がどんどんスライドしていき、農作業などを行う際に着用する作業服・野良着を現代版にアップデートするという考え方に行き着きました。というのも、ちょうどその頃、農学部出身ということもあって、ジャージを着て梅農家のお手伝いをしていたんですが、枝に服が引っ掛かったりして、動きやすいウェアというだけでは農作業には向いていないことに気づいたんです。
また、ズボンにシャツの洋服の作業服姿で縄を腰紐にして締めている農家のおじさんがいて、なぜか尋ねたら丹田(*)に力が入りやすいとおっしゃって。そうした気づきを経て、日本の風土や気候、体の動かし方に合った和服をベースにした野良着を作りたいという気持ちが高まりました」
こうして岩崎さんと一緒に、野良着の試作品づくりを始めた伊藤さん。そこに偶然出会ったエンジニアの長山さんが新たに加わり、2015年に〈SAGYO〉のものづくりが本格的にスタートします。
*丹田・・・おへその下のあたり(三寸下など諸説あり)。ここを意識すると動作が安定すると言われている
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