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炎症が癌になる!? アルコールに潜むリスク


――先ほど、アルコールによって全身に炎症が起こる可能性もあるとおっしゃっていましたが、炎症ががんになる可能性はあるのでしょうか?


はい、がんのリスクも上がります。アルコールによりリスクが上がるのは、食道がん、大腸がん、乳がん、肝がん。中でも食道がんは多いですね。これはアルコールが食道を通るときに粘膜を傷つけ、それが炎症となって、最終的にがん化するためと思われます。

また、肝がんは肝硬変が進行して起こることが多いのですが、これまではC型肝炎の患者が多くを占めていたんですね。ところがC型肝炎が薬剤治療できるようになって、アルコール性の肝硬変が急激に増えてきています。そのうち肝がんの原因の一位はアルコール性の肝硬変になるのではないかとも言われているんです。

――いろいろとチェックしないといけないんですね。

そうですね。ただ、全ての臓器が同じように障害を受けるわけではなくて。膵炎は繰り返すけれど、肝臓は全く元気という方や、肝硬変だけど膵炎も糖尿病もないという人もいて。人によってバラバラなので、気になる方はしっかりとチェックするといいでしょう。

――病気のリスクを減らす飲み方はありますか?

厚生労働省が発表した飲酒ガイドラインでは、1日20g以上のアルコール摂取は健康リスクを高めると言われていますが、例えばカナダのガイドラインでは飲酒量とともにリスクが上がると表現をされていて、20g以内だったら必ずしもリスクがないといわけではありません。

ただ、男性で60g以上を毎日飲まれる方は、臓器障害などのリスクが非常に上がることはわかっていますので、どちらにしても大量飲酒はやめた方がいいですね。

――20gというとビールだと500ml程度ですよね。結構厳しい数字だなと……。

そうですね。私も外来で摂酒治療を行うことがありますが、大量に飲酒をされている方にとっては、20g以下というのは非常に苦痛で「それだったら飲まない方がマシ」と言われる方もいらっしゃいます。



――とはいえ、いきなり断酒というのはやっぱり辛いです……。

なので、飲酒外来のときは、飲んでいる量をアルコール量に換算するとともに、どんな飲酒問題が起こっているのかを聞き、今後どうしたいのかを聞く、オーダーメイドで治療をするんですね。

例えば100g飲んでいた方が、60gに減らすだけで病気が良くなることもあるわけです。アルコールの害というのは個人差があるので、一概には言えないところがありますから、お酒を減らすことはあくまでも手段であって、それによって何をしたいのかを考えることのほうが実は大切です。

糖尿病をコントロールしたいのか、肝炎を治したいのか、ゴールを決めるようにするといいですよ。

――目標を設定せずに、闇雲に断酒をしても、失敗する可能性があるということですね。

その通りです。大事なのは、アルコールは薬物であるということ。例えば医師から薬を処方されたときに、副作用などを気にするじゃないですか。アルコールもそれと一緒で、どんな利点があって、どんな健康障害があるのか、両方把握したうえで、自分の健康にとって適切な量はどのくらいかを知っておくことが重要だと思います。


まずは自分の健康状態と酒の量を把握して、いつまでも楽しく酒と付き合いたいものだ。

林田順子=取材・文

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