豊かな水を財産とするかつてのハワイの姿へ
©JHawePhoto
2010年に設立されたNPO法人「サスティナブル・コーストラインズ・ハワイ」は、ハワイの海岸線のクリーンナップをはじめ、海洋環境における問題の解決を主要なミッションとする。
設立のきっかけは創設メンバー8人のうちの1人、カヒ・パカロさんがニュージーランドをサーフトリップしたときに「サスティナブル・コーストラインズ・ニュージーランド」という団体と出会ったことにある。
彼らはビーチクリーンなど同国の海洋環境を良くするための活動を展開しており、帰国にあたってカヒさんは「注意してビーチを見てみるといい」という言葉をもらった。
そのとおりに帰国後は足元に意識を配りながらホームビーチを歩くように。そして気が付いた。漂着物や小さなプラスチックの破片がたくさん落ちているという状況に。
その後、カヒさんたちは草の根運動をスタートさせる。気付きを与えてくれた「サスティナブル・コーストラインズ・ニュージーランド」への敬意を示すため自身の団体の名称にその名を使い、以来、13年にわたりハワイの海をきれいにする活動を行ってきた。
それにしても美しい光景を想像しがちなハワイの海は、どれほど汚れているのだろうか。草創期にメンバーに加わった来迎秀紀さんによると、オアフであれば東海岸に漂着物が多く見られるという。
サスティナブル・コーストラインズ・ハワイ 来迎秀紀さん●1972年、静岡県生まれ。 高校進学を目的に米国本土へ。 多くの時間を過ごしたフロリダでは 本格的にサーフィンをスタートさせた。 結婚式をきっかけにハワイへ移住後、「サスティナブル・コーストラインズ・ ハワイ」と出会う。2013年から正式参画。 これまでハワイの島々で 多数のビーチクリーンを企画・実行。 学校での講義も多く行っている。©Rebecca Mattos
「ハワイとカリフォルニアの間には、世界で最も多くのゴミが漂うといわれる太平洋ゴミベルトがあり、ハワイ諸島のすぐ近くに位置しています。
そのため貿易風や潮流の影響によって島に漂着しやすく、オアフの場合は東海岸が特にひどい状況にあります。多くのリゾートは南にありますから、ツーリストは気付きにくい状況といってもいいと思います」。
カヒさんが漂着ゴミの多さに気付いたのも島の北東にあるカフクビーチ。来迎さんも同様だ。
彼は進学で米国本土に渡り、卒業後はフロリダで長く暮らしていたが、10年ほど前に自身の結婚式をハワイで行うことに。そのときが初のハワイ体験となり、環境が気に入り、移住を決めたという。
移り住んだのち奥さんが「サスティナブル・コーストラインズ・ハワイ」で中心的な役割を担うボランティアと出会う。その人の誘いもあって来迎さんはビーチクリーンに参加。
カフクビーチの状況に衝撃を受け、カヒさんらコアメンバーやボランティアの「美しい海を取り戻すんだ」という思いに触れ、環境保全の意識に目覚めることになった。
「この島にルーツを持つローカルたちの情熱はとても強く、仲間を引き寄せる要因となっています。
彼らは自然とのつながりを大切にする人たち。その姿勢は言葉にも表れていて、たとえばHawaiiの中にある『wai』はハワイ語で『水』を意味する言葉。ふたつ重ねた『waiwai』は『財産』という意味です。
美しい自然と暮らしていた古代の人たちは、水が豊富にある状況を財産だとしたのです。そのうえ水や大地は所有するものではなく共有するものだと考えています。
そうした風土や伝統、生活様式が変化したのは、植民地主義からの搾取思想によって、水も土地も売買されるようになったため。彼らのアイデンティティは変わらざるを得なかったのです」。
豊かさの基準が水から貨幣に変わり、海は汚れた。そう来迎さんは続け、「美しい海を取り戻す動きは、かつてのハワイを取り戻すことと同義なんです」と言葉に力を込めた。
ローカルたちの気持ちが熱く、ボランティア活動に積極的なのも、そうしたハワイの歴史に理由を見いだすことができるというのである。
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