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マシンのパフォーマンスをチェック

およそ20時間のフライトでモデナのホテルにチェックイン。身支度を済ませてフェラーリの聖地であるフィオラノの晩餐会に出席した。「SF90XX Staradale」は世界限定799台、オープンカーも500台ほど市販される限定車。その価格は日本円で約1億円。もちろん試乗記が発出される前に完売だ。



フィオラノに設置されるカスタマーラウンジで「SF90XX Staradale」を見ながらの晩餐会では目の前のディナーよりもこのマシンに興味津々。フロントは「ハンマーヘッドシャークノーズ」を採用し、ボディサイドからリアエンドにかけて、精細にデザインされたルックスは、エアロダイナミクスの申し子という風貌だ。

隣にはこのマシンをテストするフェラーリ社のドライバー。会話はマシンの操縦性に終始した。彼はフェラーリ社の経験が浅いものの、リアルなテストとドライビング・シュミレーターの両面からデジタル技術を駆使して開発した、という話を聞いた。
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現代のレーシングカーはデジタル技術とサイバー空間のシミュレーションは欠かせないツールのようだ。マシンのコクピットは完全にデジタル化されている。
 
まずはマシンの心臓部となるエンジンは、4リッターV8ターボをミッドシップに搭載するが、SF90のベースエンジンをさらにチューニングし最高出力797PSを絞り出す。ギヤボックスは8速DCT(デュアルクラッチ・トランスミッション)に1基のモーターを内蔵するが、さらにフロントには左右独立する2基のモーターを配置している。

エンジンと3基のモーターを合算すると1030PSとなるが、この数値はあくまでも理論値だ。3基のモーターには7.9kWhのリチウムイオン・バッテリーから電力が供給され、EVモード25km、そのときの最高速度は135km/h。お買い物にはエンジンを始動させずに済みそうだ。

マシンの重重はボディにカーボン素材を多用したことで、ベースのSF90よりも若干軽量化が進み、1560kgのウェイト。その結果、0−100km/h加速は2.5秒から2.3秒に速くなっているが、最高速度は空気抵抗が増しことで、340km/hから320km/hとなった。

マシンの重重はボディにカーボン素材を多用したことで、ベースのSF90よりも若干軽量化が進み、1560kgのウェイト。その結果、0−100km/h加速は2.5秒から2.3秒に速くなっているが、最高速度は空気抵抗が増しことで、340km/hから320km/hとなった。

3/3

気持ち良すぎるホットラップ

翌日の朝は昨夜からの雨で路面はウェット。タイヤも冷えているし、はじめてのマシンなので慎重に走りだした。路面に穴があくほど注視し、マシンの挙動に全神経を注いで走る。100km/hくらいまではモーターだけで走れるが、スロットルを床まで踏み込むと、V8エンジンが目を覚し、いよいよモンスターマシンと向き合うことになった。

フル加速では背中をグイグイと押しつけられるが、同時に美しいフェラーリサウンドが耳に優しい。サーキットにも慣れ、先導車をカーチェイスする形でホットラップが始まった。モンスターマシンを操る私にとって、進化したABS‐evoと呼ばれるブレーキ性能は唯一の救い。カーボンコンポジット・ブレーキの利きは強烈だが、半乾きの路面でも安定している。



ハンドリングはじつにユニーク。スピードが高まるほど、ダウンフォースが増すので、コーナーリングは安定する。常識的なスポーツカーは速度が増すほど不安定になるが、エアロダイナミクスはその逆だ。220km/hのコーナでは400kg近いダウンフォースが発生し、ステアリングはずっしりと重くなる。
 
そのぶん、タイヤと路面のコンタクトが増しているのがわかる。他方、100km/hくらいのコーナーではダンフォースが減るのでステアリングが軽くなる。ステアリングホイールのeマネッティーノ・セレクターで「エクストラ・モーターブースト」はコーナーの立ち上がり加速が増すが、体感的に感じるほどの余裕はなかった。
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ハイテク満載の最速のフェラーリであるが、洗練されたブレーキシステムとエアロダイナミクスのおかげで、安心してホットラップを楽しめた。試乗が終わると関係者とのラップアップミーティングが行われ、各自感想を述べた。

私は「血の匂いがする最速のフェラーリだと思っていたが、「SF90XXStaradaleは洗練された操縦性のおかげで、ドライバーとの対話を楽しめた」と括った。もういちど、ステアリングを握りたいと今も願っている。



清水和夫=文
Forbes JAPAN=提供記事

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