連載「漫画、般若。」とは…… メジャーな漫画から知る人ぞ知る名作まで、般若独自の視点でその魅力を解説する本連載。第4回は……いよいよピックアップする……『1日外出録 ハンチョウ』を……!
その面白さ……悪魔的……!
※以下、『ハンチョウ』全17巻のネタバレあり。 クセ強な飯テロ漫画『1日外出録 ハンチョウ』
今回、紹介するのは『1日外出録 ハンチョウ』(※1)です。『カイジ』シリーズのスピンオフですね。
主人公は大槻太郎(※2)っていうクセ者のおじさんで、普段は地下労働施設でE班の班長として働いてます。
定期的にチンチロリンを主催して他の労働者から金を巻き上げてるんですが、『ハンチョウ』はその金で「1日外出券」を買い、24時間シャバに君臨する大槻の1日外出録になっています。1話完結タイプの作品ですね。
カイジとはトーンが打って変わって最強の脱力系ですよ。だけど、中身は結構濃い。展開が読めそうで読めないところも面白いですね。
(※1)原作・萩原天晴。『カイジ』シリーズのスピンオフとして、2016年に「ヤングマガジン サード」に初登場。「週刊ヤングマガジン」2017年4・5合併号より連載開始。現在の最新刊は17巻。
(※2)帝愛グループが建設する地下王国のE班・班長。『カイジ』ではカイジと対峙するボスキャラの1人で、一部からカルト並の人気を集める。『ハンチョウ』では主役の座を獲得。地上で贅の限りを尽くす達人として描かれる。
『ハンチョウ』は基本、飯の話です。大槻が外出中に何を食べるかっていう記録。『孤独のグルメ』と比べられがちだけど、『ハンチョウ』のほうが癖がありますね〜。ジャケットだけでも癖があるがわかると思います。
11巻とか見てくださいよ、これ。ヒップホップクルー感出してるんですよ、おじさんたちが(笑)。
各国首脳が繰り広げる「脳内グルメ会談」
好きなエピソードはいろいろありますね〜。まず、3巻の首脳会談の話。
「腹が減ってるけど、何を食べたらいいかわからない日」ってあるじゃないですか。大槻の場合は、各国の首脳会談を脳内で繰り広げるんですよ。
第17話「首脳」(『1日外出録ハンチョウ』 3巻に収録)
本体大槻 イタリアの意見を聞こうか‥!
イタリア大槻 sì(はい) イタリアが提唱したい料理は……パスタです‥!
中国大槻 ククク‥‥ダメダメ‥‥この近くに目ぼしいイタリアンは‥‥‥‥‥‥残念ながらゼロ‥‥‥‥!あそこの麻婆豆腐が‥‥‥‥
韓国大槻 おいおい また中国か‥‥‥‥
ブラジル大槻 まあでも実際‥‥中国の安定感はすごいからな‥‥
本体大槻 アメリカはどう思う?
アメリカ大槻 ‥‥‥ハンバーガー‥‥‥‥‥‥
中国大槻 ハンバーガーハンバーガーって そればっかりだなアメリカは毎回‥‥‥‥‥‥!
この各国首脳たちのやりとりがめちゃめちゃ面白いんですよ(笑)
ちなみに、中国大槻はこれまで121回採用されてきて、韓国は14回、ブラジルは4回、アメリカは18回。完全に男子ですよね。やっぱり中国は強い。ちなみに日本も強くて、採用数は228回です。
可哀想なことにイギリス大槻は採用回数ゼロ(笑)。「フィッシュ&チップス! フィッシュ&チップス!」って頑張ってるんですけどね。この日は、初登場のブルガリア大槻が採用されてました。
俺も「今日、何食べようかな」みたいな日は、脳内で首脳会談を開いてます(笑)。強いのは中国般若、韓国般若あたり。あっ、タイ般若も強いっすね。
足りないのは愛情じゃなくて、きざみのり
8巻に出てきた、焼きうどんの話も面白かったな〜。あれはすごく心に残りましたね。大槻が親父の作ってくれた男メシを再現したくて、元労働者仲間の木村さん家を訪ねるんです。
2人で焼きうどんを作りながら感傷的になって、過去の父との記憶を思い出したりして……。いざ完成して食べるんですけど、ちょっと思い出の味と違うんですよ。
大槻 ん〜〜‥‥確かにうまいけど‥‥‥‥なんだろう‥‥‥‥父の作った焼きうどんと比べて‥‥なんとな〜く‥‥‥‥何か足りないような気がするなぁ〜〜‥‥‥‥具材も調理法も‥‥‥‥多分これで完全に再現できていると思うんですが‥‥気のせいかな〜〜‥‥‥‥
木村 フフ‥‥見て 大槻くん 外‥‥‥‥きれ〜〜な‥‥‥夕暮れ‥‥‥!
大槻 !
木村 ワシが思うに‥‥‥この焼きうどんに足りないものがあるとすれば‥‥‥‥それはきっと‥‥親が子を想う‥‥‥愛情なんじゃないかな‥‥
大槻 !
木村 お父さんとの仲がどういう感じだったかは‥‥‥‥‥‥ワシにはわからないけど‥‥‥‥‥‥こんなに美味しい焼きうどんを作ってくれたのなら‥‥‥きっとお父さんは大槻くんのこと‥‥‥とても大事に想ってたんだと思うよ‥‥‥‥
大槻 木村さん‥‥そう‥‥‥‥なのかもしれませんね‥‥‥‥
ナレーション 否‥‥‥本当はきざみのり‥‥! 足りないのは愛情ではなく‥‥‥きざみのり‥!
……足りないのは愛情じゃなくて、きざみのりっていう展開ね。感動させといて落とすのかよって(笑)。『ハンチョウ』がよくやる手法なんですけど、俺はそこも好きですね。
他にも好きなエピソードはたくさんあって、
動画で詳しく語ってるんでそっちを見てください。
物語のスパイスとなる「黒服」の存在
『ハンチョウ』の登場人物で欠かせないのが「黒服」です。大槻のように外出する人間を監視したりする立場なんですけど、いろんなタイプがいるんですよ。
黒服でいちばんメジャーなのは宮本かな。でも、俺がすごく好きなのは柳内さん。
柳内さんは無口なキャラなんですけど、存在感がすごいんですよ。料理が好きで、大晦日は自分で蕎麦を打って振る舞うほど。趣味とはいえ30年以上、蕎麦打ちをやってるから腕はプロ級。
……じゃあ、なんで黒服やってんだよっ!って話なんですけど(笑)
第23話「年越」(『1日外出録 ハンチョウ』 3巻に収録)
蕎麦を褒められたら、「グッ」とか小さくガッツポーズしてるし。好きなんですよね〜。他の黒服よりリスペクトされてるし、海外ドラマに出てきてもおかしくないキャラというか。柳内さんが出てくる回は絶対面白いですよ。
『ハンチョウ』は1話完結なんで、どっから読んでもいい。もちろん、カイジを知らなくても問題ありません。
とにかく達人なんですよ、大槻が。読んでるこっちが遊び方を教わってる感じですね。大人の漫画ですよ。おすすめです。
ということで、今回は『1日外出録 ハンチョウ』でした!また次回!
動画はコチラ!