次に、どれくらいの頻度で遠くを見ればいいかというと、これもアメリカの眼科学会から「20・20・20」という指標が提示されています。
「20・20・20」の意は、「20分間、パソコンやスマートフォン(こうしたディスプレー表示機器を総称してVDTといいます)を見たら、20秒間、20フィート先を見よう」ということ。20フィートは約6メートルですが、ここは先に述べたとおり、約2メートルと置き換えてかまいません。
ただし現実的に考えると、20分ごとに一息入れるのは難しいという人も多いのではないでしょうか。
実は日本の厚生労働省からも、上場企業に対してVDT症候群に関する指針が示されています。それによると、1日に4時間以上のパソコン作業を伴う事業者は「1時間に1回の目安で休憩をとるよう従業員に指導すること」と示されています。
アメリカの眼科学会の指標が現実的に厳しすぎるようならば、この指標に従うだけでも、何も意識しないよりはるかにいいでしょう。
まとめると、近視の進行予防には「緑を見る」のではなく、「パソコンなどディスプレーを見る作業中は、1時間ごとに、できれば6メートル、難しければ2メートル以上遠くを20秒間ほど見る習慣をつける」と覚えておいていただければと思います。
「すでにかなり近視が強いから」と諦めてはいけない
すでにかなり近視が進んでいる人は、「いまさら何をやっても無駄」と諦めてしまっているかもしれません。
でも近視は「進行が止まる」ということがありません。これもよく患者さんが口にすることなのですが、「近視が進むのは子どものころだけ」というのは間違いです。大人でも、高齢者であっても、生活環境や習慣次第で近視は容赦なく進行します。
例えば、外回りの営業職からオフィス勤務の事務職に転属になってから、急に近視が進行した。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で家に引きこもりがちになり、動画配信サービスをたくさん視聴するようになってから、一気に近視が進行した──という話をよく聞きます。
逆に、都会暮らしだった人が山間部に引っ越したら近視が少し改善した。事務職だった人が外回りの営業職になったら近視が少し改善した。こうした事例も、よくあること。視力の変化は、存外に環境やライフスタイルによるところが大きいのです。
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さて、かなり進行している近視は、たしかに元に戻すことはできません。だからといって目にいいことを一切習慣づけないままでは、さらに進んでしまいます。
しかも近視は、かなり進んでいる人ほど、さらに進行しやすいのです。
近視が弱い人よりも強い人のほうが、失明の原因疾患で上位に入る「病的近視(屈折度数は問わず、びまん性脈絡膜萎縮以上の萎縮性変化、もしくは後部ぶどう腫を有する状態)」になるリスクが高くなります。
怖がらせるようなことを言って申し訳ないのですが、近視で本当に問題なのは、「遠くが見えづらくなり、やがて手元も見えづらくなる」ことではありません。光そのものを失う可能性がある病的近視に発展する危険があることなのです。
実は近年、この問題は世界保健機関(WHO)でも非常に深刻視されています。
近視に「いまさら何をしても無駄」と諦めるべき段階などありません。今からでも進行予防に効果的とされる習慣を取り入れ、少なくとも、今より悪くなることは可能な限り防いでいきましょう。