山の活かし方③
子供たちと地域を育むプレイパーク
山には、人と地域コミュニティを育てるポテンシャルもあると教えてくれたのは、教育クリエイターの鈴木健太郎さん。2018年の北海道胆振東部地震で被災した安平町に新しく公立の小中一貫校を建設するプロジェクトに参加しています。鈴木さんがプロジェクトで提案するのは、デジタル技術を活用した新しい学校の使い方。スマートフォンから鍵の開け閉めができるスマートロックや、オンラインで学校施設の利用予約ができるサービスを開発し、地域住人がいつでも安全に学校を利用できる仕組みを考案しました。
「安平町は人間の数よりも牛や馬が多い場所です。だからどうしたって、都会の子どもたちに比べて人に出会う機会は安平町の子どもたちの方が少ない。都心と地方では、得られる情報量の格差があるんです」
それを解決するのが、地域の大人たちが学校を利用できる仕組み。従来の学校と家の往復という閉じた世界に地域の人が入り込むことによって、新しい世界との出会いを生み出すことを目指しています。こうした空間づくりとしての学校を研究する鈴木さんは、山も子どもたちを育てる環境として活用できるといいます。
「科学的に、山のような自然の中で過ごすことで子どもの成長に良い影響があるということが分かっています。一つには免疫力、もう一つには脳の発達を高めます」
幼い頃から土に触れて有機的な菌にさらされることで免疫や抗体が作られ、五感への情報量が多い中で過ごすことで脳の機能が発達するのだそう。
安平町では、実際に山林を子どもたちのために活用している例があります。それが、はやきた子ども園の北進の森です。もともとは保護者の1人が所有していた土地を園が譲り受け、今では園の子どもたちの遊び場に。また、毎週定期的にプレイパークとして開放することで、子どもだけでなく大人も参加して自由にアウトドアを楽しむことができる、地域コミュニティとしての役目も果たしています。
「森を管理できない人の多くは役場に寄付しますが、役場も維持費がかかるために所有林にするだけで何も活用しないという実情があります。こんなふうに教育機関に山を寄付して役立ててもらうのが一番価値のある使い方なのではないでしょうか。安平町のやっていることは、日本中のどの地域でも可能性のあることだと思います」
鈴木さんは、現代社会において、教育業界全体の山への注目度は高くはありませんが、「これからの教育現場での山需要はあるはず」だと話します。これからの時代を作っていく子供たちのために、山ができることはまだまだあるようです。
鈴木健太郎
神奈川県出身。2007年にデジタルアート集団「チームラボ」に新卒1期として入社。その後独立し、教育を楽しく出来る仕組みをつくる教育クリエイターとして、日本最大の数学イベントや、不登校生向けの修学旅行プラットフォーム、日本最大のオンライン授業展などの立ち上げを行う。
山の学校、山丸ごと建築、プレイパーク……。今回お話を伺った中で出た活用方法以外にも、まだまだ可能性が眠っているはずです。山でのアクティビティに注目が集まっている今、新たなアイデアが見つかるかもしれません。そうなった時、5年後の山のあり方は放ったらかす以外のものに変わっているでしょう。