そして、就活中に三和交通が女性乗務社員も積極的に採用していることに共感、入社に至る。
社長面接で大学祭の話も熱弁したところ、「いずれ、広報の仕事もやってもらうかも」と言われたが、当初配属されたのは、ここ横浜営業所の配車センターだった。
「モニターの地図上に自社のタクシーがどこにいるかが見えていて、お客様から電話がかかってきたらお迎え先にいちばん近いタクシーを無線で手配するという仕事です」。
ベテラン社員が腕をふるうセクション。
取材時のモニターも見せてもらった。
さまざまの情報を素早く読み取る必要があるので、慣れないと結構難しいそうだ。
ちなみに、千秋さんは子供の頃から行き先に着くのがギリギリになりがちだった。
高校時代も駅からタクシーで登校したのが先生にバレて怒られたという。タクシー会社への就職も神様のお導きかもしれない。
「あと、入社していちばんびっくりしたのは手動でドアを開けていること。車高が高い新型車両の『ジャパンタクシー』はボタンを押すと自動でスライド式のドアが開くものも多いんですが、旧来の『クラウンタクシー』などは乗務社員が運転席の横のレバーを引いてギギーっと開けています」。
サイドブレーキのような黒いレバーがそれ。
また、コロナ禍において三和交通では運転席と客席を完全に仕切るL字型の「アクリル板防犯衛生シールド」も開発した。
全国のタクシー会社に販売し、売れ行きも上々だという。
特許も取得しています。
さらに、千秋さんが強調するのは「接遇」を重視する三和交通のスタイル。いわゆる、誠意を尽くす接客ということだが、そのひとつにドアサービスがある。
「お客様の乗り降りの際に乗務社員が車を降りて外からドアを開けるんです。ホテルのドアマンみたいな感じで、弊社の全タクシーで徹底しています」。
なるほど、タクシー業界ではあまり見かけない光景だ。
従来から「接遇」に力を入れてきたわけだが、ユニークな取り組みを始めたのは2007年に29歳の新社長が就任して以降のこと。
「最初は『タートルタクシー』という試みでした。アンケートを取ったところ、『タクシーに乗車した際に急いでいないときもあって、実はもう少し丁寧な運転をしてほしいと思ったことがある』という声が聞かれたんです。そこで、カメのようにゆっくり走るモードを選べるようにしました」。
運転手にお願いするには気が引ける場合でも、タッチパネルで要望を送れるというものだ。その後、車内の温度や会話の有無などをリクエストできるようになった。
よく見ると乗務社員の出身県や趣味も記されている。
なお、車内ではオリジナルの「タートルタクシー飲料水」が100円で購入可能。
そして、ここから三和交通の面白ツアーラッシュが口火を切る。
まずは、2015年から始まった「心霊スポット巡礼ツアー」。「営業所がある各エリアの知名度を上げよう」という社長の意見から実現した企画だ。
「心霊スポットとして知られる墓地やトンネルを巡ります。興行は夏季の10回のみ。当日までコースを発表しないというサプライズ感も受けたのか、昨年の応募数は2000件を超えました。なかなか抽選に当たらないほどの人気です」。
コースは乗務社員による「あそこ、ちょっと気持ち悪いんだよ」という声が反映されることも。
続いて人気なのは、2018年から始めた「SP風タクシー」。SPに扮した乗務社員が目的地まで客を送り届けるというサービスだ。
「忘年会シーズンに呼ばれることが多いですね。あとは、結婚式の二次会までの移動を新郎新婦にサプライズで贈るとか」。
写真のSPは、この後に登場する千秋さんの上司なのだ。
タクシーの概念を超えたこうしたサービスは現在15種類。しかし、中には大失敗というケースもあるようだ。
「『芋泥棒討伐ツアー』ですね。社員の家の畑に泥棒が入ったことがあるそうで、ならば埼玉県三芳町の営業所の隣の畑を勝手に守ろうとなりました。
要するに三芳町観光のラストに芋畑の様子を見に行くツアー。2019年の開始以来、応募は0件です」。
白いドレスのコスプレ姿が千秋さん。
なお、冒頭で触れたおじさんダンサーズは2020年に結成。当時、採用責任者だった溝口部長ができるだけ多くの若者を呼び込むために続けている。こうした動画の撮影や編集を主に担当するのは千秋さん。
「すべては三和交通の知名度を上げて『選んで乗ってもらう』こと、若者の入社希望者を増やすこと。それを目的とした取り組みなんです」。
会社のために奮闘する千秋さんを推薦してくれたのは、同じ統括本部の上司、小関正和さん。
「彼女が入社後に配属されたのは配車センターですが、たった3カ月で広報に異動になりました。以来、取材対応やプレスリリースといった通常の広報業務以外に、SNSの運用、請求業務、物品販売の問い合わせ対応など、マルチに活躍しています。まだ20代ですが会社にとっては欠かせない存在ですね」。
SP姿、サマになっていましたよ。
というわけで、ダンス動画も面白ツアーも真摯なタクシー会社という土台があるからこそ成り立っているものだとわかった。
取材後は当然、三和交通のタクシーで最寄りの新横浜駅に向かおう。乗せてくれたのは女子乗務社員さん。以前は静岡県の工場で働いていたが、頑張れば頑張るほど見返りがあるこの仕事に転職したそうだ。
ドアサービスの接遇もバッチリでした。
では、千秋さん。最後に読者へのメッセージをお願いします。
当連載にご乗車いただきありがとうございました。
[取材協力]三和交通www.sanwakoutsu.co.jp